シーサー職人として注目を浴びる新垣優人の個展が、丹青社のレセプションエリア「クリエイティブミーツ」で12月14日まで開催されている。展示の様子と新垣へのインタビューをお届けする。

総合ディスプレイ業のリーディングカンパニー、丹青社のレセプションエリア「クリエイティブミーツ」では、現在、沖縄の若手シーサー職人、新垣優人(あらかきゆうと)の個展「星を宿す、祈りのシーサー」を開催している。12星座をモチーフに作られたシーサーの展示の様子と、新垣のインタビューを交えて紹介する。
新垣優人 個展「星を宿す、祈りのシーサー」

丹青社がサービスを提供するアート・工芸作品のプラットフォーム「B-OWND(ビーオウンド)」では本社レセプションエリア「クリエイティブミーツ」を使用してさまざまな作家による展示が行われている。日本全国の作家に声がけをし、そのうちの1名として、沖縄で活動をしている新垣への可能性を強く感じ、今回の個展開催へとつながった。
12星座がモチーフとなったシーサーたちが、ディスプレイ台の横1列に並ぶ姿は圧巻だ。1体ごとに精巧に作り込まれたシーサーは、表情、歯並び、毛並み、爪、筋肉など、1つ1つの細部をかたどる線や起伏から生命の力強さを感じる。それぞれにベースの色も異なり、赤・青・黄・緑など色彩豊かな作品が並ぶ。星座の神話を読み込み、その内容を咀嚼しイメージを作り上げシーサーに落とし込んだと新垣は語る。
彼の作り出すシーサーには紛れもなく何かが宿っているように見える、そんな迫力を感じる作品群だ。


シーサーの造形に約1週間、その後1~2か月ほど自然乾燥させ、釉薬をかけて窯焚きという工程を繰り返し、完成までに3カ月ほどを有するそう。
今回の作品群の醍醐味は、鑑賞者が自分の星座がモチーフとなったシーサーを見つけ出し、自分事としてより身近に感じることができる、という点だ。角度を変えて見ることでシーサーの生き生きとした表情や造形が繰り出されてくる。正に生き物さながらの様相だ。

シーサー職人 新垣優人 インタビュー

介護職を目指していた学生時代からの転身、シーサー職人への道程
ーーシーサー職人を目指すまでの過程
家業が「やちむん」って呼ばれる沖縄の焼き物の窯業を営んでおり、僕で4代目になります。皿や甕といった焼き物の1つとして、シーサーの制作も代々行っています。
沖縄の人にとってシーサーはとても身近で特別な存在なのですが、僕の場合は父が作っていたことでその思いはより強いものだったかもしれません。幼少期から、他の家のシーサーと父の作るシーサーの違いを見て取ることができ、僕の中で父のシーサーは「かっこいい」ものとしての象徴でした。
でも実は僕、家業を継ぐつもりはなく、介護職に就こうとして大学に通い施設でアルバイトなどもしていました。そんな学生時代に、父が京都の清水寺に「祥雲青龍」の像を奉納することがあって、この作品から受けたインパクトが非常に大きく、自分もこういう「かっこいい」作品を作れるようになりたいと改めて強く思うようになったんです。そのときから目指していた方向は一転し、父は親方という存在に変わり、作品作りに勤しむようになりました。
ーー作品制作で苦労を感じることは?
とにかく好きで作っているので、苦労は全く感じません。自分がこうなりたいって思う親方がすぐ隣にいてその作品も傍で見れる、とても恵まれた環境にいるなと思っています。 作品を見て学んで作り上げていくという伝統があるので、親方からあれこれ言われることもなく、基本的に自由なスタンスでやらせてもらっています。
僕の作品は、もちろん親方のシーサーからの影響が大きいのですが、子どものころに好きだったアニメやゲーム、野球やハンドボール、そうした僕の中に培ってきたものが相まって今に活かされ、制作のイメージとして沸き上がってきている気がしています。

ーー沖縄とシーサーの関わりについて
シーサーは、アフリカ大陸に生息するライオンが起源の空想の生き物です。ライオンを権力の象徴とする国などもありましたが、沖縄にたどり着いたそのイメージは「魔よけ」や「福を招く」という意味合いのものになっていました。
もともとは屋根に1匹いたものだったのですが、今ではシーサーはペア、オスメスの対で置くものと思われていますよね。その風習が生まれたのは戦後からで、狛犬の配置からきていると言われています。なのでおうちに飾るシーサーは1匹でもいいんですよ。
ーーシーサー作りに込める思いは?
「幸福を招くもの」として思っているので、僕のシーサーを手にされるお客さんのことを考えながら、その家族や家屋を守ってほしい、幸せになってほしいという願いを込めています。
お客さんにも「このシーサーだったら守ってくれそう」って感じてもらえたら嬉しいですね。なので手にされる方々の魂や思いをシーサーに乗せてもらえるような造形や表情にこだわっています。
ーーシーサーの制作過程などお聞かせください
シーサーの内部は空洞になっています。厚さ1センチくらいから土を徐々に積み上げて作っていきます、3Dプリンターのようなイメージで。土台ができたらその上に足場を乗せていく。そこから先は仕上げたいフォルムを作り上げていきます。例えば今回作った星座の中の水瓶座の工程で、甕をさかさまにして持ってみたいなと思ったら、自分で実際にその形のポーズをとって撮影して、それを参考に造形にしていく。シーサーは360 度の立体物なので後ろ姿も作り込む必要があるのでまた同じポーズで後ろ側を撮影して。軽くスケッチすることもありますが、自分の身体でイメージを作ってしまうほうが多いですね。こういう動作や作業がとにかく楽しいんです(笑)


ーー今回の展示に12星座がモチーフのシーサーをつくることになったきっかけは?
最初の動機としては、単純に射手座の造形を作ってみたかった。半人半獣のケンタウロス族が弓矢を携えているあのフォルムです。あとはシーサーにたくさん装飾ができるんじゃないかと思って。射手座の姿なら、自分の中にあるシーサーのイメージの幅を広げて表現できる気がしたんです。
そこから射手座について調べ始めたら、星座にまつわる神話がいろいろあって。なのでまずはストーリーを読み込みました。さらに実際に空に浮かぶ星座をかたどる星と線、それとシーサーのフォルムが重なるような落とし込み作業をしていきました。なので星座線とこれらのシーサーの形を見比べてもいただきたいポイントです。
星座ごとに神話の中でテーマカラーのようなものがあって、それを釉薬で取り入れています。普段作るシーサーは魔除けという意味で黒っぽくなりがちなんですが、今回は各星座にまつわる配色を用いることでカラフルな作品が完成しました。
シーサーと星座のコラボですね。シーサーにも星座にも守ってもらえる、そんな縁起のいい作品だと思っています。

ーー自らも受け継いだシーサー職人の道、将来について思うことは?
伝統工芸とかシーサーの文化を守っていこうとか熱い思いがあったわけではなく、親方のシーサーがかっこよくて自分も作ってみたいという動機からこの道に進みました。次の世代につなぐためには、まず自分も「かっこいい」と思ってもらえる作品を見せていかなくてはと思っています。なので機会があれば表に出ていったり、SNSで発信したり、多くの人に作品を見せて次につながるような動きを今は積極的に行っています。
沖縄では子どもの1歳の誕生日に、将来その子がどんなことをするのか、何になるのかを占うような風習があるんです。いろいろなアイテムを並べてその子がどれを選ぶか、たとえばマイクを手に取ったら歌手になる、というような。僕の長男は1歳の誕生日を迎えたとき、見事にシーサーを選んでくれました。もう彼の将来も決まりました、親の敷いたレールにこのまま乗ってもらいます(笑)

新垣優人 プロフィール:
1994年生まれ
大学在学中に父・光雄が京都の清水寺に奉納した「祥雲青龍」に感銘を受け、シーサー職人になることを決意
2016年より父・光雄のもとでシーサー作りを学ぶ
大学卒業後は本格的にシーサーや龍などを作成する
Instaram:https://www.instagram.com/yachimunya_arakaki/
<受賞歴>
2018年 第70回沖展入選
2019年 第71回沖展/うるま市長賞/みんなの一点賞
2020年 第72回沖展入選
新垣優人 個展「星を宿す、祈りのシーサー」
会期:2025年12月14日(日)まで
会場:株式会社丹青社 レセプションエリア「クリエイティブミーツ」
住所:東京都港区港南1-2-70 品川シーズンテラス 19F
時間:平日 18:00~20:00/土日 11:00~18:00
入場料:無料 ※事前予約制(詳細は下記WEBより)
WEB:https://media.b-ownd.com/archives/article/yutoarakaki-soloexhibition