蜷川実花による「mirror, mirror, mirror mika ninagawa」アーティストブックリリースとの連動企画展覧会が、5月31日まで開催中

蜷川実花の新作アーティストブック「mirror, mirror, mirror mika ninagawa」が、3月13日(金)に発売された。それと同時に蜷川にゆかりの深い街・下北沢の古民家ギャラリー「DDDART」で、本書と連動する展覧会も始まった。その両方を見て体感することで、今回蜷川の手で作り出された世界が完成する、そんな構成になっている。
「mirror, mirror, mirror mika ninagawa」とは
――蜷川実花の集大成となる1冊が誕生
子どもの頃に描いた絵画にまで遡った100万点にも及ぶ作品を総ざらいしてできた今回のアートブック「mirror, mirror, mirror mika ninagawa」は、蜷川実花の半生を綴った集大成的1冊として制作された。
このタイトルは、本書が蜷川のこれまでの活動、世界を写し撮る写真家の目線、鑑賞者側が捉える蜷川の世界を通じて知る自分などに対する「鏡」としての意味を成すことからmirror, mirror, mirrorと名付けられている。
「実花さん自身の写し鏡でありながら、それでも分かり得ない実花さんの魅力を表現できるようなオリジナリティ溢れる本を作りたい。」その思いと構想から約1年半という時間をかけて完成した作品は想像以上に特殊な作りとなったと関係者は語る。

一般的な機械製本はされておらず、プリントされた蜷川のこれまでの写真作品を何枚も重ね、中央の折り目部分をリボンで結んでまとめている。印刷されたバラバラのページが重なり二つ折りとなっているものを、1枚1枚バラして鑑賞することもできる作りだ。冊子の中にはさらに小さな冊子が挟まっていたり、ポストカードやステッカーの同梱もされていたり、様々な形状の作品がこのブックの中に含まれている。そしてこれら全部をくるみあげる風呂敷状の布がカバーとして使われており、包む人によって形状もまた変化していく。いわゆる写真集という一括りのワードでは完結できない作品だ。
蜷川実花の制作の根底にある「破壊、再生、また破壊」という永遠のテーマがこのアーティストブックの佇まいでも表現され、さらに、鑑賞者の手によっても破壊と再生をすることができる仕様となっている。このブックには正解のカタチがない。

――アーティストブックから派生・発展した展覧会の開催
本書を作る過程で連動して展覧会もできたらという話になり、ショーケースで見せるくらいのサイズ感で考えていたものが、当初の想定を超え、ギャラリー規模の同展へと拡張していったそうだ。
アーティストブックに載っている作品と展覧会で見ることができる作品はイコールではない、というのも今回のプロジェクトの特異な点だろう。あくまでも「mirror, mirror, mirror mika ninagawa」は、アーティストブックも展覧会も「破壊、再生、また破壊」といったテーマや、作らずにはいられないといった原始的な初期衝動を根底にした共通したコンセプトで作り上げられており、それぞれがそのつながりにあるもの、という位置付けになっている。
純度高く蜷川の世界観を表現するにあたり、事前にきっちり展示プランを決め込まず、設営しながらその場で作り上げていったという。蜷川自身が手を動かし、ペンキを撒き散らしたり、コラージュを壁に貼ったり、デビュー当時のような展覧会構成が思い起こされる。今回の展示では、手作業による生感や蜷川実花個人の存在を捉えることができるような空間が形成されている。

「mirror, mirror, mirror mika ninagawa」展覧会 レポート
下北沢は、蜷川が10数年間、仕事に暮らしに子育てにと人生の中で一番濃い時間を過ごした土地だった。これまでの活動を振り返り、自身を表現する場所は下北沢以外になかったということで、今回この地での開催に至ったそうだ。
会場の「DDDART」は下北沢駅から15分ほど歩いた住宅地の中にある古民家ギャラリーだ。
玄関の暖簾をくぐり靴を脱いで上がると、フィルムサイズの小さなアクリル画となった大量の蜷川の作品が、通路に沿って会場全体を取り囲んでいるのがまず目に入る。時系列にはとらわれず、長年撮り溜めてきたシーンを蜷川の感覚でカテゴライズしレイアウトしていったという。


最初の部屋には、蜷川の手作業によって作られたレジン(樹脂)アートと写真のコラージュが並ぶ。極小なパーツが大量にひしめき合いレジンで接合されたフォトフレームやインスタレーションは、間近で見れば見るほどにその細かさとそれらが織りなす作品の完成度に目を見張る。
蜷川の創作活動テーマ「破壊、再生、また破壊」の密度が色濃く反映された作品群と言えるのではないだろうか。


次は映像作品の部屋へと続く。2本重なって映し出される海中の映像は、あたかも自分が魚群の中に紛れ込んだような感覚に陥る。空と水面の光の入り方なども美しく、時間を忘れて海の世界に没頭してしまいそうになる。

そして6畳の和室を2つ連ねた部屋が現れる。「mirror, mirror, mirror mika ninagawa」の世界観を具現化した巨大な作品ともいえる空間だ。
蜷川によって撒き散らされた数色のペンキが部屋一面を覆う。この様相には非常に大きな衝撃を受けた。その痕跡から「蜷川実花は確かにここにいた」という気配を強く感じ取ることができる。彼女の体温がまだここに残っているといっても過言ではないかもしれない。
写真、レジンアート、2体の大きなガーランドなどの作品と共に、アートブックの色校正や蜷川が本展の準備時に着用していたピンクのつなぎなども展示され、今回のプロジェクトの制作過程をなぞれるような臨場感も伝わってくる。

床の間は、祭壇のインスタレーションになっている。「Butterfly Dreams」のネオンサインを背負い、中央のアクリル製キャビネットケースの中にはアーティストブックのパーツやレジン作品などが点在。そのケースを囲むように、蜷川の手作業による聖母像数体と供花も添えられている。厳かな雰囲気が漂うこの一角の空間は、蜷川の集大成を謳う今回のプロジェクトの象徴的スペースとして位置付けられている。


最後の部屋は、これまでとは対極的な白一色の空間で桜をテーマとした最新作が展示されている。ビビッドな色彩はここには存在せず、淡い色合いと光の乱反射が印象的なシリーズだ。桜の花へのフォーカスよりも、我々の視界に無意識に映っていると思われる、桜を取り巻く不意の一瞬の光景が蜷川によって切り取られている、そんな構図の作品が並ぶ。

庭には巨大なLEDモニターが配置され、蜷川の30年に及ぶ写真と映像のストックが次々と展開されていく。長尺作品なので軒先に用意されたベンチで時間が許す限りゆっくり鑑賞できるようになっている。

ここに繰り広げられるリアル蜷川ワールドでは、各々が心の内にいろいろな感情の起伏を覚えることになるだろう。蜷川実花の頭の中を覗きに下北沢に足を運んでみてほしい。



蜷川実花「mirror, mirror, mirror mika ninagawa」展覧会
会期:2026年3月13日(日)~ 5月31日(日)
会場:DDDART 下北沢
住所:東京都世田谷区代沢4-41-12
時間:平日 11:00~19:00
入場料:一般1,100円/大学・専門学生1,000円/中・高校生700円/障害者手帳をお持ちの方1,000
WEB:https://mirrorninagawa.com/
Instagram:@mirrorninagawa
蜷川実花アーティストブック「mirror, mirror, mirrormika ninagawa」
発売日:2026年3月13日(金)
定価:¥11,000
判型とページ:合本 B5 56p., B5 40p., A4 144p. A5 16p. B6 38p., A6 16p. A4 8p., 合計318p
著者:蜷川実花
ブックデザイン:秋山伸/edition.nord
エディトリアルデザイン:刈谷悠三・角田奈央/neucitora
編集:我孫子裕一/afumi inc.
発行:カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(CCC ART LAB)
発売:光村推古書院株式会社
©mika ninagawa, Courtesy of Tomio Koyama Gallery
蜷川実花(にながわみか)
写真家、映画監督、現代美術家
写真を中心として、映画、映像、空間インスタレーションも多く手掛ける。クリエイティブチーム「EiM(エイム)」の一員としても活動中。
木村伊兵衛写真賞ほか数々受賞。2010年ニューヨークのRizzoliから写真集を出版。また、「ヘルタースケルター」(2012年)、「Diner ダイナー」(2019年)をはじめ長編映画を5作、Netflixオリジナルドラマ「FOLLOWERS」(2020年)を監督。
これまでに写真集120冊以上を刊行、個展150回以上、グループ展130回以上と国内外で精力的に作品発表を続ける。
個展「蜷川実花展with EiM:彼岸の光、此岸の影」(京都市京セラ美術館/2025年1月-3月)は、25万人を動員。
最新の写真集に「VIRA」(bookshop M Co., Ltd./2026年)、「mirror, mirror, mirror」(光村推古書院/2026年)がある。
WEB:https://mikaninagawa.com/