FEATURE|「SKAC(SKWAT KAMEARI ART CENTRE)」の仕掛け人、「DAIKEI MILLS」代表 中村圭佑へインタビュー
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「SKAC」は「SKWAT」のプロジェクトの1つである。その母体でもある「DAIKEI MILLS」は、ISSEY MIYAKEやCIBONEなどのショップや、ホテル・オフィスなどの空間デザイン・設計を多岐にわたり手掛けることで知られる設計事務所だ。代表の中村圭佑に「SKAC」オープンまでの経緯について話を聞いた。
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「SKWAT」と「SKAC」について
―SKWATとは
「DAIKEI MILLS」のメンバーが中心となりSKWATは構成されています。プロジェクトによってメンバーは変わり、外部の人間を入れてコラボレーションすることもあり、流動的なチーム編成になっています。
「SKWAT」が発足したのは2019年で、「DAIKEI MILLS」を始めて10年に差し掛かるタイミングでした。きっかけになったポイントは2つあります。1つは、クライアントからオファーを受けてプロジェクトに関わるのではなく、自分たちから世の中に思想を発信して、賛同者を募って社会を巻き込みながら、設計を主体としたプロジェクトを進行したいなと思うようになっていたこと。
もう1つは第六感的な話なのですが、世の中の常識が変わるような天変地異が起こるんじゃないかって思いがあって。渋谷・原宿界隈に長い間いたのですが、町に閉塞感を覚えるようになり、新しいムーブメントが起きにくい状況だなと感じてたことです。
その両軸があって、何かが起こる前に社会に影響を与えるような活動ができないかなって思っていたのが「SKWAT」の始まりです。そこに2020年コロナがやってきて、当たり前だったものが壊れていった中で、僕たちがそこを見据えて動いていたかのようなカタチでこの活動が逆に際立って見えたというのはありますね。
―「SKAC」オープンの経緯
「SKWAT」のプロジェクトはいろんな手法があるのですが、共通しているのが、僕らが「VOID(ボイド)」と呼んでいる社会の隙間、可能性があるのに見過ごされている部分に新たな価値を投下して、価値転換を起こすっていうことが大きな命題にあります。
遊休施設とか、使われなくなってしまった場所や建物に乗り込んでいって、建築的なデザインだけではなく、美術表現など多角的な表現方法を用いてその場の価値を変えることを試みています。「SKWAT」は英語のSquat(スクワット)、Squatting(スクワッティング)でいう「占拠する」という意味も含んでいるんです。
亀有に来る前に、青山の一等地でSKWATのプロジェクトをやっていました。僕たちの活動や繋がりから、その建物の空きテナントにブランドが入りたいみたいな声が出始めたとき、この場での僕たちの役割はある程度果たせたのかなと思えたんです。
その次に何をしようってなったとき、誰もが入れて交流ができる場所で、業界人とか興味がある人に限らず、もっと大きなスケールで町を取り込んで影響を与えたい、クリエイティブなことに興味がない人でも巻き込めるような状況を、どうしたら作れるんだろうってことをずっと考えていたんです。
青山だと街に来るお客さんも限られているのでなかなかそれが難しくて。我々の知名度や活動内容も広がっていましたが、あくまでも業界内での話なのでそれを打開したいと思っていました。僕たちだけじゃなく、いろんなコラボレーターを巻き込んでいかないと大きなアクションにはつながらないなと。
それで場所とかチャンスをいろいろ窺っていたときにJR常磐線高架下の再開発プロジェクトを知りました。アートカルチャーがない場所、都心のど真ん中ではなく少し郊外、青山とのコントラスを感じられる場所を探していたので、ここがいいんじゃないかって直感的に思えて。それでJRさんを訪問して、従来とは目線を変えた都市開発の方向性について1年くらいの時間をかけて話し合っていきました。
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―亀有にオープンすることをマイナスに捉えることはなかったのか
最大のチャレンジではありました。僕らが求める最大の「VOID」だなって。
毎日ローカルの人と顔を合わせることが僕たちの勝算ポイントでした。オープンは当初の予定から半年ほど遅れたんです。ここにオフィスを構えて、ローカルの人たちと顔を合わせて、どういう施設ができるのかを共有しながらゆっくりやっていきたいって思いがありました。
仕事終わりにこのあたりで飲み歩いたり、亀有の人たちと交流を持つようなことを積極的にしていたんです。それもあってオープンしてすぐに隣のスーパーの店員さんが遊びに来てくれたり。ローカルの方々とのコミュニケーションさえ取れれば絶対成功できると信じていたので、そこを突き詰めた1年半って感じですね。
―SKACのコンセプト
場所を作るっていうのは、人がその場所をどう感じて楽しむかみたいなところがあります。高圧的なデザインを完成させてそれを見せるというよりは、隙間のあるデザイン、未完成の美という視点で作っています。
特にこういう下町で、老若男女問わず来てほしいっていうことを考えると、まぁこんな感じでやってますんで、どうぞどうぞお入りくださいっていうスタンスでいたいなと。僕らが普通に仕事をしているワークスペースと売り場が混在している、いわば垣根のない未完成な状態、そこを敢えて開放しています。
あともう1つは倉庫もコンセプトになっています。VDSもtwelvebooksも基本的にはディストリビューションの会社なので、世界中からいろんなものが集まってきて日本のマーケットに流すっていう卸し業務が主なんです。そういう作業も実際に見てもらえるようになっています。
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アートセンターとしての活動
―アートを身近に感じてもらうために
僕らが考えるアート、アートセンターというものを見てもらいたい、届けたいという思いを込めて、「SKAC」のネーミングには「アートセンター」って敢えて入れています。
アートって高尚で距離のある存在ではない、展示・鑑賞するだけでもない。体感するだけでもアート、身近なもので決して難しくないってことを分かってもらえるようにしたい。それには今のコンテンツだけでは物足りないって自分たちも感じています。
―規模拡張などの予定は?
今年中におそらく今のスペースの倍くらいになって、その後さらに拡張する予定です。
僕たち設計事務所で扱っているものって資材とか素材なんです。プロジェクト進行時にサンプルを取り寄せたり、モックアップを作ったりして、物質的なものがどんどんどん溜まっていくんです。
「SKAC」のコンセプトでもある倉庫で言うならば、僕らの事務所は素材の倉庫にあたります。設計事務所でしか扱えない特殊素材、一般の流通で見ることがないものを手に入れることができる「マテリアルストア」を作ろうとしています。ホームセンターのアップデート版、ライブラリーみたいなイメージで。僕たちならではの、僕たちにしかできないことって、そういった素材を扱うっていうことだなって。
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―アートを追い続けることの思い
レベルを下げない、カタチは維持しながら親しみやすいものを届ける、ということですね。
強めのコンテンポラリーアートから、子どもも大人も楽しめるような入門編まで、全てをフラットに感じられる場所を作りたいと思っているんです。これってめちゃくちゃ難しいんですけどね。
あとは教育的な場所になってほしいという観点もあります。レクチャーするとかではなく、この場所に来たら自然と何かを感じられるとか、きっかけができるとか、押し付けがましくないあり方でいたいなと。最先端の尖がったモノがあるかもしれないけれど、それでも居心地の良さを感じて何か1つでも記憶に残ってもらうとか、そういう向き合い方ができればと思っています。
オープンしてからの反響
―どのような人が集まってきているのか
平日は数100人、休日には1000人単位で来てくれて、毎日がお祭り騒ぎのようになっています。そんな中に地元のお年寄りの方々が朝からお茶していたり、制服を着た近所の高校生グループが学校帰りに寄ってくれたり、さまざまな人が入り混じってそれが本当にバランスが良くて。正にそういう場所を作りたかったんです。
「かっこいいのに、居心地いい」みたいな言葉をもらったときは嬉しかったですね。それこそ僕らが目指してる空間なので。
あと、子どもたちにも来てほしいと思っています。足場や突起物があるので少し気を付ける必要はありますが、長時間遊び続けられることができる場所というのは、自分の息子で実験済みです。
―今後の活動について
僕らは常にトライアンドエラーで場を続けていくことが使命なので、自分自身の活動に飽きず変化を最大の糧として邁進していきたいと思っています。
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DAIKEI MILLS/SKWAT
住所:東京都葛飾区西亀有3-26-4
Web:http://daikeimills.com/
Instagram:https://www.instagram.com/daikei_mills/