アートの街として目を見張る発展を続ける天王洲エリアで、寺田倉庫主催による「TENNOZ ART WEEK 2025」が開催された。イベントの様子をレポートする。

ギャラリー、ミュージアム、画材ラボ、保税倉庫などが複合的に集まるエリアで、アートの展示・制作・保存・流通といった多様な機能を支える環境が整う街、天王洲。倉庫街としての面影を残しながら、アートを軸としたまちづくりが進んでいる。
寺田倉庫主催による「TENNOZ ART WEEK 2025」が、9月11日(木)から15日(月・祝)までの期間、天王洲エリアで開催された。多様なアート関係者の交流を促し、日本のアートシーンの「今」を国内外に発信することで、天王洲を世界一のアートシティへと発展させることを目指している。寺田倉庫の6施設を活用し、ジャンルや世代を超えた多様なプログラムを展開した。
今回は「TENNOZ ART WEEK 2025」の開催に合わせスタートした、下記4つのエキシビションを回った。
●「諏訪敦|きみはうつくしい」
●ナイル・ケティング「Blossoms – fulfilment」
●女性アーティスト19名の作品展「Seesaws」
●日本の伝統技法を用いた現代アーティスト3人展「Blurred:交錯する境界」
なおTENNOZ ART WEEK 2025終了後の現在も、「諏訪敦|きみはうつくしい」「Blurred:交錯する境界」は引き続き開催している。
「諏訪敦|きみはうつくしい」
現代日本の絵画におけるリアリズムを牽引する画家、諏訪敦。
本展では、最新の大型絵画「汀にて」を中心に、そこに至るまでの画家のクロニクルを、過去の主な作品群とともに物語る。

生成AIの時代、イメージは容易に作り出すことができるようになっているが、それに逆行するかのように、取材を重ね時間をかけて細部まで描かれる諏訪の作品。
人物画と静物画。これまでの制作活動が多数展示されている中、生と死に向き合うことになった、自身の母の死。その死体は果たして人物なのか、静物なのかという疑問の中で描かれたという母の屍。

死者はいつも似ている
一時は人物画から遠ざかるも、また「生」について向き合い始めることに。 本展のメインビジュアルにもなっている「汀にて」では、モチーフとなる骨格標本に石膏などのプラスターで人型の模型を作り、新作となる大型絵画に着手した。


また、芥川賞作家の藤野可織が諏訪のアトリエを訪問、多くの作品の印象をもとに書き下ろされた小説「さよなら」が会場で配布されている。作品と合わせて読むことで、より諏訪の世界観の拡がりを感じることができる。
「諏訪敦|きみはうつくしい」
会期:2025年9月11日(木)~ 2026年3月1日(日)
会場:WHAT MUSEUM
住所: 東京都品川区東品川2-6-10 寺田倉庫G号
時間:11:00~18:00 ※最終入館17:00 ※月曜休館(祝日の場合、翌火曜休館)
入場料:一般1,500円/大学生・専門学校生 800円/高校生以下無料
WEB:https://what.warehouseofart.org/exhibitions/suwa-atsushi
ナイル・ケティング「Blossoms – fulfilment」
ヨーロッパを拠点に世界各地の美術館やフェスティバルで作品を発表してきた気鋭のアーティスト、ナイル・ケティングによるパフォーマティブ・インスタレーション「Blossoms – fulfilment」。

無機質な倉庫という空間に合わせた、リアルタイムで展開されていくアートパフォーマンス。我々、作品を見る側の人間はナイルによって「ブラッサムズ」と名付けられる。「サクラ」として鑑賞者やSNSフォロワーを買い取る行為が元となり生まれたそうだ。会場で突発的に繰り広げられるパフォーマーの動きとともに、ブラッサムズは作品の一部と共存することになる。
本展に合わせ作られたアプリを使いながら、ブラッサムズを成長させることで作品の一部となるという演出も組み込まれていた。来場者を巻き込む体験型のインスタレーションの手法としても新しさを感じ、次に何が始まるのかという期待感も高まる作品だった。



ナイル・ケティング「Blossoms – fulfilment」
会期:2025年9月11日(木)~ 2026年9月15日(月・祝)※会期終了
会場:寺田倉庫 G3-6F
住所: 東京都品川区東品川2-6-10 寺田倉庫G号
WEB:https://artsticker.app/events/86627
「Seesaws」
若手アーティストの作品との出会いの場になることを目指し作られたWHAT CAFE。カフェと併設されたギャラリーで、気軽にアートに触れるきっかけを作ってくれる場だ。
ここでは、女性アーティスト19名による、自然と人との関係性に着目した展覧会「Seasaws(シーソーズ)」が開催された。
種から植物が芽生え、それを食べて育った蚕や羊から糸が紡がれ、糸から裁縫を施す、という一連の流れ。私たちの生活は、こうした自然の循環の中ですべて繋がっていることを感じさせてくれる作りとなっている。
タイトルの「Seasaws」は、「See saw」彼女は見た、彼女の視点という女性アーティストだけで作り上げられた構成にかけられた意味が。さらに、シーソウという音の響きにある「ソウ」からは、英語での「sow」種をまく、「sew」縫う、という言葉も内包されているという。会場入り口付近は、植物に関する作品が、奥の方は縫製や刺しゅうなどの作品がレイアウトされることで、これらの言葉の意味と連動しているのも特徴的なので、その構成を意識して見てみるのも良いだろう。



「Seesaws」
会期:2025年9月11日(木)~ 9月23日(火・祝)※会期終了
会場:WHAT CAFE
住所: 東京都品川区東品川2-1-11
時間:11:00~18:00 ※最終日は17:00閉館
入場料:無料
WEB:https://cafe.warehouseofart.org/exhibition/seesaws/
「Blurred:交錯する境界」
ギャラリースペース「BONDED GALLERY(ボンデッドギャラリー)」では、日本の伝統技法と現代アートを融合することでその境界に揺るぎと曖昧さをもたらすことで生まれる美しさを探る、という展示「Blurred:交錯する境界」が開催中だ。
気鋭の作家、奈良祐希、能條雅由、久野彩子の3名による作品を紹介している。
3D CADやプログラミングを活用しながら、伝統的な陶芸技法と最先端の建築テクノロジーの融合を目指し、新しい工芸の価値を発信する、奈良祐希。


日本の伝統的な美学をもとに、写真や箔を用いた平面作品の制作を行い、記憶と時の流れをテーマに探求する、能條雅由。


蝋で型を作り、金属作品に置き換える「ロストワックス鋳造技法」で、硬質で重厚な素材に、繊細で高密度なディテールを表現する、久野彩子。
「都市」をテーマに、増殖し続ける都市構造、複雑に絡み合う現代の景観イメージを追求した作品づくりを続けている。

左:cube
右:REBORN

TERRADA ART COMPLEX Ⅰ・Ⅱは、国内最大級のギャラリーコンプレックスとして、日本を代表するアートギャラリーが多数集積しているので、ギャラリーホッピングを楽しむことができる場にもなっている。
「Blurred:交錯する境界」
会期:2025年9月11日(木)~ 9月28日(日)
会場:BONDED GALLERY
住所: 東京都品川区東品川1-32-8 TERRADA ART COMPLEX Ⅱ 4F
時間:12:00~19:00
入場料:無料
WEB:https://www.terrada.co.jp/ja/news/15697/
今回はTENNOZ ART WEEK 2025として街全体で様々なイベントや展覧会の同時開催ではあったが、この天王洲エリアは何かしらのアートイベントが常に開催され、街中のいたるところにインスタレーションを発見できるので、アートを身近なものとして感じさせてくれる。アートの街だからと気負わず、誰もが気軽に街歩きを楽しめる、そんな雰囲気をまとった居心地のいいエリアになっている。