Aryo Toh Djojo|脳内を飛び越え、浮遊する記憶と感情を描写する芸術的アプローチと今この瞬間に対する心緒とは
2023年11月15日から2024年1月13日にかけて米国、カリフォルニア州出身のアーチスト、アリヨ・ト・ジョヨの個展「Over My Head」が 開催されている。ト・ジョヨは地元、カリフォルニア州パサディナのアートセンター・カレッジ・オブ・デザインにて美術を学ぶ。 視覚的遠近法、色彩理論、芸術における形式的要素に対する疑念といったデザインの原理を巧みに取り入れながら、 エアブラシ技法を自身の芸術的アプローチの中心とした実験的な絵画を描く。
Aryo Toh Djojo solo exhibition「Over My Head」、展示会場にて
ト・ジョヨの作品の多くは、自身の原風景であるロサンゼルスの都市構造を描いており、 独自のサブカルチャーと記憶や感情に残る質感が共鳴している。本展は今年初開催されたアートフェアTokyo Gendaiでのプレゼンテーションに続くものとなる。 今回、ト・ジョヨは映像やファウンド・フォトなどの要素を初めて取り入れ、鑑賞者がどのように真実を認識するか、その概念をさらに探求している。 更に、ト・ジョヨが関心を抱き続けているUFO(未確認飛行物体)の目撃情報や、それらがベースとなり歴史を通して生じてきた社会政治的な言説を示唆する一連の新作絵画を初公開している。 オープニングレセプションの熱気が残るギャラリーにて、原体験や内省をカタチにするまでのプロセス、そしてこの時代に対して思うこととは。
ロサンゼルスの風景に溶け込んでいた幼少期の体験
――幼い頃どのような少年だったか?
子供の頃からアートが大好きで、家族もそれを認識してくれていたよ。よく絵を描いて冷蔵庫に貼っていたからね。それから12歳くらいの時にスケボーと出会った。それは青春時代にカルチャーにのめり込む大きなファクターだったと思う。一時期はプロになるために、スポンサーを付けようとしたくらいだった18歳になって、美術大学に行くことになったんだ。
――どのような街で育った?
スケボーをしていたからか、自然と外にいる時間が長かった。そのためか、自分自身が街の風景は一部になっているという自覚があったんだ。だからロス自体がどんな街か、だなんて考えたことはなかったかな。今もそうだよ。
――現在の創作の根幹に関係するような出来事や記憶は?
高校生の時に屋外でスケボーやっていたらUFOを見たんだ。スケボーに夢中になっていたけれど、空に発光している物体があったから驚いたことをよく覚えているよ。でも瞬く間に消えたんだ。その時は、その体験を題材にした作品を作って発表するなんて想像していなかった。振り返ると、その体験が現実に対する僕の目線を変えたと思う。世界の見方、視座について着目する契機になった。
Aryo Toh Djojo solo exhibition「Over My Head」、展示会場にて
まるでエイリアンに導かれるように合致する文脈
――あなたの思考と実践は研究者のようにも感じるが、その道に進もうとは考えたことはなかったか?
大学に入った後に、アートとリサーチの関係性を探る講義の中で、コンセプチャルアートに触れ、リサーチが創作のプロセスの一つだということを知れたのは僕の作品に大きく反映されていると思う。ただ、学生の時はあまり成績が良くなかったんだ(笑)。スケボーに夢中で、他のプレーヤーやLAという街の風土もあってか、自然と反抗精神が育まれた。既存の秩序や権力に歯向かったり。僕はストリートで育ったんだ。そういう意味で、研究者にはなれなかったと思う。反骨精神を持った研究者ももちろんいるだろうけれどね。
Aryo Toh Djojo solo exhibition「Over My Head」、展示会場にて
――現在の作風、作家性が確立されたのはいつ頃?
エアブラシの技法が生まれた時のことか…。美大を卒業して抽象画を書こうと思った時に、たまたま触れたんだ。前々からエアブラシを使ったアートが好きだったから、スプレー技法は意識していたかもしれない。あとはスケボーをやっていた影響もあってか、街中に描かれているグラフィティアートでもよく使われるという意味で、メディア(媒介)として興味があったと思う。転機となった展覧会はないけれど、エアブラシの技法でパンデミック中もずっと創作を続けてきて、それが収束に向かいつつある今、こうして陽の目を浴びるようになったことも理知的に説明できないシンパシーを感じる。それに、エアブラシ技法とスケボーは似ていると思う。自分とスケボーと街があって、どう乗りこなして行こうかという姿勢と自分とエアブラシとキャンバスがあって、どう描いていこうかという姿勢はすごく近しい。マインド的にも文脈的にも合っていた。あとはタイミングもあると思う。振り返ってみるとこれは作為的ではないが、UFOを見て、その体験を忘れずにいたこと、美大に進学したこと、それらの体験をベースにした創作が陽の目を浴びたこと、それはタイミングという、大きな力に導かれていたような感覚なんだ。実はエイリアンにそうなるように導かれていたりしてね(笑)。
――人の真実に対する認識とそれに纏わる概念に目を向けているようだが?
スケボーやっていたり、反権威的なメンタリティーを持っていた青春時代だったので、社会や世界から発せされる情報が変わることに対して疑問を持っていた。創作に夢中になり、スケボーをしていてカルチャーに触れていると尚更そういった在り来たりな、誰かに作られたかのような日常に対して疑問が浮かぶ。メディアが発する情報やセレブリティーに関するパパラッチの情報には特に懐疑的になる。媒体は過度にナラティブだと思う。ある時から、それに疑問を持つようになったんだ。それだけが全てではないよね、と。現実はもっと複雑だし、精神状態によっては、ここは現実なのか、という疑問さえ浮かぶことだってある。真実だと思っていることは果たして本当に真実なのかな。
Aryo Toh Djojo solo exhibition「Over My Head」、展示会場にて
思慮深いリサーチと感覚と時代性と記憶がまだ見ぬ地平に広がる
――UFOといった未知の物体にも関心があるだが、そのキッカケはアニメとか映画の影響か?また、人類がまだ到達していないそうした未知に対してどのような感覚を抱きながら向かっているのか。
子供の時からSF映画が好きだったし、宇宙飛行士になりたいくらい宇宙も大好き。実はUFO体験も忘れていたけれど、コロナ禍に、あの時の経験は何だったのだろう、とふと思い出した。そこから学術的な資料を始め、長い時間をかけてUFOに纏わるリサーチをしてきた。調べていく内に、この宇宙に存在しているのは人間だけなのか、そもそも宇宙とは、人間とは、とスピリチュアルな目線を含め、あらゆる視点で思想的に発展していった。
Aryo Toh Djojo solo exhibition「Over My Head」、展示会場にて
――現代社会について。昨今のデジタル社会、仮想空間を主とするこの時代をどのように思っているのか?
SNSが生活の中心にありつつある現在、我々は常に大量の情報をスワイプしているよね。それに関しては虚構もたくさんある。例えば、インフルエンサーが船で優雅な生活を送っている写真を見たとしても、それが現実なのか非現実なのかわからないよね。僕の作品は見る人にそうやって日々移り変わっていく世界を停止する役割でありたい。今回の作品は屋根を描いたものをメインにしているけれど、実際にその屋内では何が起こっているのかわからないよね。豪華な造りの屋根だったとしても、そこに住む家庭は崩壊しているかもしれないし、古く朽ちた屋根だったとしても、その内側では愛に満ちているかもしれない。現実に対して立ち止まってみる。それは内省に繋がると確信しているよ。
Aryo Toh Djojo solo exhibition「Over My Head」、展示会場にて
――今もロサンゼルス在住とのことだが、LAのアートやカルチャーシーンの流れをどのように感じているか?
ずっとアトリエにいるからね…(笑)。最近のLAのアートシーンでは、エアブラシを使ったアーティストが増えているよ。それは街の潜在的な背景もそうだし、サーフィンとかローライダーカルチャーとか、ハリウッドでのエンタメ業界でさえも、Photoshopがない時代はエアブラシで細かい画像処理をやっていた歴史もあるからね。過去と現在を照らしてみると、LAという場所性とエアブラシの技法の親和性を感じる。
――次回作になり得る現象、物事などはあるか?
構図は変わるかもしれないが、描く対象はそこまで変わらないと思う。例えば、一つの絵画の中に二つのイメージを重ねる技法は既に思索しているよ。あと、サウンドアートにも興味があって、絵画と音の関わりについても探究しようと思っている。音は人の気持ちに影響するからね。それがいずれはスカルプチャーとか立体作品にまで拡張できたらいいなと思っているよ。
Aryo Toh Djojo solo exhibition「Over My Head」、展示会場にて
アリヨ・ト・ジョヨ「Over My Head」
会期: 2023年11月15日~2024年1月13日 会場:ペロタン東京 住所:東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル1階 ペロタン東京 電話: 03-6721-0687 開館時間: 11:00~19:00 休館日: 日、月、祝 観覧料無料 アクセス 地下鉄六本木駅3出口徒歩2分
URL: https://www.perrotin.com