Dyson|「ダイソン国際エンジニアリングアワード2023」の国際優秀賞3作品が決定
2002年に設立されたジェームズ ダイソン財団は、毎年「国際エンジニアリングアワード」「ジェームズ ダイソンアワード」を主催している。エンジニアリングやデザインを学ぶ学生や卒業生にアイデアを発表する機会を与えており、これまでに世界で400以上の発明を支援してきた。今年も「ダイソン国際エンジニアリングアワード2023」の選考が進められていた中、ついに国際最優秀賞、サステナビリティ賞、特別人道賞の3つの国際賞の受賞者が決定した。
国際最優秀賞に輝いたのは、被災地で使用するハンズフリーの静脈内投与(IV)装置「The Golden Capsule」 。2023年2月のトルコ・シリア地震では5万5,000人以上が亡くなり、10万人が負傷した。その際、医療従事者は患者のためにいくつもの点滴パックを手で運びながら、厳しい環境下を移動する必要があったという。この問題を解決すべく立ち上がったのが、韓国ソウル弘益大学の学生チームに属するYujin Chae、Daeyeon Kim、Yeonghwan Shin、Yuan Baiの4名。重力ではなく弾性力と気圧差を利用する非電動のハンズフリー静脈内投与装置「The Golden Capsule」を設計した。被災地の医療従事者が患者を搬送する際、点滴パックを持ち上げる必要はなくなり、点滴速度の制御に電気が不要になる。
The Golden Capsule
続くサステナビリティ賞には、サステナブルな外壁コーティング「E-COATING」が選ばれた。香港特別行政区では、エアコンが総電力消費量の約3分の1(31%)を占めている。さらに、毎日47万本超のガラス瓶が廃棄物として埋められているという問題もある。そこで、1つで2つの問題を解決する環境に優しいソリューション「E-COATING」が開発された。廃ガラスを再生して作られた本作品を屋根や外壁に塗ることで、太陽光を反射し建物の熱吸収を抑えることができる。こうしたエアコンなどの冷却ソリューションによって電力消費量を削減し、関連する温室効果ガスの排出を緩和できる。また、屋内用の新たな「E-COATING」の製法も研究される予定だ。発明者は、Hoi Fung Ronaldo ChanとCan Jovial Xiaoの2名。
E-COATING
そして、特別人道賞 (special humanitarian prize) に選ばれたのは、汎用牽引用オフロードトレーラー救急車「The Life Chariot」。ウクライナ紛争の状況を目にし、厳しい地形を横断して医療救助を行うことの難しさに気付いたというポーランドの若き発明者、Piotr Tłuszcz。そこからインスピレーションを得た彼は、あらゆるフックを備える車両に取り付けられる医療後送オフロード救急車「The Life Chariot」を設計した。低重量とサスペンションのおかげで、車両の荷室よりも安全に負傷者を運ぶことが可能。
Piotrがトレーラーのデザインに興味を持ったきっかけは、家族とともにバルカン半島やピレネー山脈をオフロードで旅した経験だった。それから10年間を費やし、学士課程と修士課程でオフロードトレーラーや洞窟救助トレーラーを設計。本作品「The Life Chariot」を開発した。 ストレッチャーに乗せた負傷者1人のためのスペースと医療従事者または軽傷者用のシートをさらに2つ追加することで、レスキューチームの救助能力を高めている。
The Life Chariot
ダイソン社の創業者であるジェームズ ダイソン。自身もデュアルサイクロン掃除機を開発した発明者である彼は、本アワードに関して次のようにコメントを残している。
「この若き発明家たちは、私たちが直面する問題について傍観するのではなく、自らが取り組み、テクノロジーとデザインを通じて解決しようとしています。世界を良くしようとする情熱と決意に、大きな感銘を受けます。今回の受賞が成功への足がかりになることを願っています。」
選ばれた各受賞者には、発明を次なる段階へと展開するサポートとして3万ポンドが贈られる。今回の受賞を糧に、今後それぞれの研究はさらに躍進することだろう。