FEATURE|心の琴線に触れる「ろう」の世界 – ろう作家・落合 可南子

FEATURE|ろう作家・落合 可南子の作品が、暮らしにもたらすやすらぎと静寂

ろう作家 落合 可南子

自らの肩書きを「ろう作家」と名乗る落合可南子。

彼女の蝋作品には凛とした美しさが宿る。自然へのオマージュと日々の暮らしへの思いが込められ、穏やかさや柔らかさの中に芯の強さも感じる作品たち。たった4年の活動歴で作り上げられた独自の蝋の世界観について話を聞いた。

ろう作家としての活動に至るまで

ーーファッションデザインからの転身

まだ4年なんです、ろうを始めてから。 元々はファッションデザイナーを15年以上していて、自分のブランドもあって、洋服作りはずっと好きでした。でも流れの速い大量生産の業界に疑問を持つことも多くなっきていて。30代半ばの出産を機に自分のブランドは休止、子育てと仕事のバランスを取りながら他にできることを考えていました。おばあちゃんになってからもできる、最後の仕事ってなんだろうなって。

ーー蝋との出会い

そんな矢先にコロナ禍となり、予定をしていたデザインの仕事もストップ。仕事が落ち着いたことを機に子供との時間をゆっくり取るため、しばらく地元の札幌に帰省したんです。北海道の自然に囲まれていたら、毎日せわしない東京の生活やファッションの仕事で、自分の心が疲れ切っていることに気づいてしまって。そんな時にふと、植物を使った仕事がしたいなって思ったんです。香りが好きだったこともあり、アロマを使った何かないかなって漠然と考え始めていました。

東京に戻って家族でキャンプに行った日の夜、旦那さんがキャンドルランタンに火を灯したんです。その明かりを見たときに、森林の香り、焚火や清流の音、取り囲む自然のすべてが全身に入ってきて、 五感が研ぎ澄まされる感じを覚えたんです。なんて気持ちがいいんだろうって。その瞬間に、私これをやってみたい、って直感的に思いました。

ーー独学で蝋を学ぶ

もしも新たな道に進むことになった場合に自分に課していた条件が、住まいの1室でできるもの、ということでした。小さなテーブルの上で作り出すことができる何か。ヒーターと鍋と温度計といった道具から作れる蝋は、偶然にも思っていた通りのものだったんです。

落合の作業台

とはいえ、やろうと決めたものの知識はゼロ。本やウェブでキャンドルのレシピを探して、見よう見まねで始めました。スクールもいくつかありましたが自分の思い描くイメージのものと違う気がしてしまって、必然的に独学の道を進むことになったんです。

ただ、やはり一人では分からないこともあったので、感覚と合うようなところにワンデーレッスンを受けに行ったりしながら、トライアンドエラーで実験を重ねていきました。

蝋作りは、私にとっては洋服作りの集大成であって、単に素材が変わっただけなんです。
洋服の素材作りが好きで、蝋もそれと同じ感覚。たった数%の成分配合の違いで表情や質感が変わる、それが面白くて仕方なくて、もうただただ毎日楽しくやっています。

ろう作家としての歩み

ーー作品へのこだわり

巷で多く使われる「キャンドルアーティスト」という肩書きは使わず、敢えて「ろう作家」としています。横文字だと自分の作風にはそぐわない感じがしているので。

ろうそくって火が灯った姿がメインで、それが美しいとされるものですが、自分が蝋作り始めた当初は、オブジェや花器を作っていました。蝋素材なのに火を灯せるものが1つもないっていう。

焼き物や、お花を飾ることが好きだったということもあるのですが、植物や自然にまつわる仕事がしたいっていうのは、純粋に強く思っていました。蝋に精油を混ぜたり、ドライフラワーを使ったり。灯りへのこだわりではなく、植物を使った作品を作っていきたい、という気持ちが根底にずっとあるんです。

蝋の蕾を結んだハクモクレン
ドライフラワーを使った作品

ーー「暮らしに寄りそう自然美」

「暮らしに寄りそう自然美」、これが作品作りを始めたときからの思いとなっていました。

デザイナー時代に、フランスで幻の青の染料と呼ばれる「パステル染め」の職人の方と一緒に仕事をする機会があったんです。現地のアトリエを訪れた時に、1点ずつ手染めの大変そうな作業なのに、それをすごく楽しいっておっしゃって、パステルの植物としての魅力をたくさん伝えてくださった。自然の力のすばらしさ感じさせてもらうきっかけになりました。

北海道や富山など自然の多いところで育った幼少期の記憶も大きかったですね。都会も大好きなんですけど毎日すごく忙しく過ぎていく。そんな慌ただしい暮らしの中に自然を感じられるものがあったらいいのにって思いました。

植物に限らず、自然の中にあるものに惹かれます。たとえば石とか。海や川で拾った石を見立ててオブジェを作っています。

落合が拾い集めた石
石をモチーフにした蝋作品

これは「漂着物」という作品で、海辺を散歩しているときに思いつきました。

海辺に何かが絡みついて流れ着いたものっていう形で、ひも状のものはペーパーコードという椅子の座面に使われるものなのですが、制作で残った分は廃棄してしまうというので家具屋さんから少しいただいてきました。捨てられていくものに新たな付加価値を見出したオブジェなのですが、ペーパーコードが私のもとに辿り着いた姿というストーリーから「漂着物」と名付けました。

漂着物

ーー暮らしの中の、気持ちの切り替え装置として

気持ちを切り替える装置として、蝋に触れていただきたいなって思っています。

モノや情報に溢れ、身体や心の疲れを感じる方も多いこんな時代だからこそ、暮らしの中に心地よい時間や空間を見つけてもらいたい人それぞれの何かしらの拠り所みたいなものがあればいい。暮らしを大きく変えるようなものではなく、部屋の小さな一角にある蝋、それが視界に入ると心に火が灯る、そんな存在になれたらなと。

私の作品には、火を灯すものと灯さないものがあります。火が苦手な方や小さなお子さんがいらっしゃる方には、蝋のオブジェでアロマの香りを楽しんでいただければ嬉しいですね。ふわっとしたアロマを感じるだけでも心がほぐれたりするので、暮らしの一部として置いてもらえれば嬉しいですね。

ろう作家 落合 可南子 プロフィール:
ファッションデザイナーから転身し、2021年ろう作家として作品作りを始める。
作品の多くは自然から着想を得て制作、ろうの新たな価値観を生み出す。
陶芸やインテリア、アパレルなどジャンルを超えたコラボレーション企画も多数展開している。

https://www.instagram.com/ochiai_kanako/

今後の出展情報
8月20日(水)~26日(火) 伊勢丹(新宿/グループ展)
10月3日(金)~5日(日)  AXIS gallery(六本木/グループ展)
10月18日(土)~26日(日) VOICE(表参道/グループ展)
11月8日(土)~16日(日) kojin kyoto(京都、グループ展)
12月1日(月)~12月末 be born(学芸大学/個展)
12月6日(土)~17日(水) hut(掛川/個展)
12月12日(金)~16日(火) Spiral(表参道/Xmas Market)
※詳細はインスタグラムにて随時告知

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