FEATURE|アーティスト・グラフィックデザイナー 渡辺明日香

フジロックフェスティバルのアートワークで一躍注目を集めた渡辺明日香。
活動の原点から現在の制作への思いについて話を聞いた。

音楽とアートの関係性の面白さへの気づきがデザインの道へ。もともとの音楽好きが高じ、レコードやCDジャケットのアートワークに影響を受け、今現在いるべきところに辿り着いたという感じを受ける、アーティスト・グラフィックデザイナー 渡辺明日香。

「流動的に」「決めつけすぎずに」と時折発せられる自身の性格やこれまでの人生を印象的に表す言葉は、そのまま彼女の作り出す世界観の表現にも繋がっていた。

デザイナーとしての活動経緯、ターニングポイントとなったフジロックのアートワーク、そしてこれからについて話を聞いた。

音楽とアート、それぞれへの興味

――デザインの道を目指すことになったきっかけや影響を受けたことは?

高校生の頃にバンドをやっていたことがあっていろんな楽器を試してみたものの、どれにも向いてない、明らかに才能がなかったんです。でも絵は描くのは得意だったので、周りからバンドのロゴやポスター作りをよく頼まれていました。そんなこともあってCDやレコードのジャケットを見る機会が多く、だんだん60-70年代あたりのサイケデリックポスターとかに惹かれ始めて。ピーター・マックスっていうビートルズのイエローサブマリンのデザインをした人や、「Art of Rock」という本に載っている作品に影響されて、そういった雰囲気のデザインを自分でもできるようになってみたいって思うようになって。曲線のフォルムや書体を模倣・模写するようなことをずっとしていました。

「Art of Rock」

地元が長野の田舎で、アーティスティックな環境に触れられる唯一のショップがTSUTAYAだったのですが、そこでCDをたくさんレンタルしてきてジャケットをひたすら眺めて、気に入ったジャケットはコピーしたり。

大学で東京に出てからは、タワレコとかWaveに行くと、CDのレビューが書いてあるフリーペーパーが置いてあったのでそれらをもらってきては、気になったものはスクラップしていましたね。それが私にとってのデザインギャラリーみたいになっていきました。

フリーペーパーのレビューを読んでジャケットも気になる作品があったら、CDショップに行って試聴させてくださいって頼んで何枚も聴かせてもらったり。思っていた音と全然違うとか、ジャケットはシンプルだけど賑やかな音だなとか、そういう遊びを1人でしていました。あとはフライヤーをもらうためにクラブに行くみたいなことも。 音楽とビジュアルの関係性がすごく面白くて。もらえるものはとにかく端から集めまくっていました。

――デザイナーとしての経歴を教えてください

多摩美術大学の夜間コースに通いながら、昼間は週7日ペースでデザイン事務所や飲食店でのアルバイトを掛け持ちして生計を立てるような生活でした。卒業時に広告制作会社に入社して、デザイナーとして必要なスキルを身につけ、印刷の知識、広告業界の流れなどを実社会の中で学んでいきました。

ただ、そうした生活の中で、自分の作りたいデザインとお客さんの求めているデザインにギャップが生じてきて、もどかしい気持ちが強くなってきて。お客さんの欲しいものを作る仕事なのだから当たり前なんですけどね。じゃあ自分はこれから何がしたいのって考えた時に、自主制作をしていきたいって思ったんです。それで2年半勤めた会社を辞めました。

フリーランスになってから最初はなかなか稼げなかったんですが、デザインの仕事を少し受けながら、他のアルバイトもしていたり。フェスの飲食の手伝いなんかもしていたのですが、そこでデザインできるんだったら、フライヤー作って欲しいとか、看板とかメニューも作って、っていう流れで仕事が来るようになって。それが徐々につながって、クラブやイベントのフライヤーをたくさん作るようになっていましたね。

フジロックのアートワークでの大抜擢を経て

――デザイナーとしての転機は?

ターニングポイントになったのは、完全にフジロックですね。ファンの数も多いし、露出の量が全然違うので緊張するのと同時に、フィードバックもたくさん受けるので刺激も大きい。自分の作品を見てくれている人がここまで多いものは他にはないです。

2017年に、フライヤーを作っているただの小僧みたいな私に、突然メインポスターの依頼がきまして。フジロックを運営しているSMASHの1人の方が、とあるクラブで私が作ったフライヤーを見て指名してくださったんです。好きにやっていいよって言っていただけて。これまでのイメージと大きく変わることを厭わない。そういう思い切ったところがなんともフジロックらしいというか。

自然にまつわるようなモチーフをたくさん散りばめて入れてみたり、多色展開にしてみたり、これまでとまったく異なるイメージのものをこれでいいのかなって不安に思いながらも作り上げていきました。そこから今まで続いて、この2026年で9回目になりました。

FUJI ROCK FESTIVAL’17 メインポスター

デザインだけではない、それを超えた楽しさがある。毎年仕事する同じ顔触れに会うと「あ、また今年もここに帰ってきたな」って思えます。今どき珍しいくらいに熱い思いの人たちが多くて、自分もその中にいれることはすごく光栄です。

アルバイトなどの掛け持ちをしていた頃、実はフジロックの裏方に入っていたこともあってお酒のサーブとかしていたんです。今思うと、そこからなんとなく縁がつながっているんだなぁって思いますね。

――フジロックでの仕事内容を教えてください

今年も元旦に開催発表が出されました。
毎回、アートワークは複数バージョン作るんですけど、過去作品と被らない、似ていないものが選ばれていきますね。

年間で8か月くらいはフジロックの仕事に携わっています。ラインナップが載ってくるキービジュアル、WEBのバナー、SNS関係のデザイン、その他にも会場装飾があったり。昨年は新しいステージ周りの装飾のデザインもさせてもらいました。

私が作ったベースデザインから他のデザイナーさんが横展開してくれている部分も多いので、全部私が担当しているわけではないのですが、それでも私の手元のファイル数はたぶん最終的に1000くらいに上ると思います。

フジロックの行われる苗場スキー場には本番の2週間くらい前から入ります。その年のアートワークに合わせたエントランスのゲートの施工をしたり、他の装飾物に関しては実際に会場内を歩き回って空いているスペースを見つけて設置場所を決めていくという、完全な現場合わせで動いていきます。

本番が始まってしまったら少し会場内を見回って、あとはもう好きなように楽しませてもらっています。

FUJI ROCK FESTIVAL’25 エントランスゲート
制作風景
FUJI ROCK FESTIVAL’25 オブジェ

――作品制作の進め方について

マティスの切り絵的な表現や、シルクスクリーンやリトグラフといった印刷手法のイメージのような、フラットな色彩表現が好きで、自分にもそうした作品制作が向いている気がしています。

デザインを考えている時間はすごく長いです。頭の中でグルグルさせている時間も重要だなと思っていて。でも考えているだけだといろんな可能性が出てきて決着がつかない、覚悟が決まらないみたいな状態になっちゃう。それを絞っていく作業が手を動かすこと。そうすると方向性が絞れて形ができてくる。描き出したらけっこう早くて1-2日で形になっていきます。小さなスケッチブックなんかに下描きを描いてみて、なんとなく決まったらパソコンで落とし込んでいきます。

デザインが重要視されるような場合にはある程度きっちりと図案を考えてから進めるのですが、流動的に進められそうな作品はそこまで形も色も決め込まず動かしていくこともありますね。

――現在の活動内容について

音楽系の仕事は今でも多くさせてもらっています。フジロック以外のフェスや、アーティストの新作やライブのビジュアルだったり。

オフィスや店舗の空間アートディレクションもしていまして、クライアントとの対話を通して、その場所らしさや空気感を立ち上げていくことを大切にしています。打ち合わせも重ねて、お互いの作りたいものが完成できるよう進めています。

私の作品を見てイメージがインプットされている状態でご依頼をくださるお客さまがほとんどなので、求められているものと自分の作りたいものに大きな相違はないですね。会社員時代に感じていたようなギャップはずいぶん埋まってきています。

Wall Art for STARBUCKS COFFEE Umekita Green Place

プロジェクトごとに自分に課せられたポジションでスタンスの違いはあります。

例えばフジロックはポスター 1枚のデザインから始まりましたが、そこから徐々に作業が増えていって、自分で手も動かしながらディレクション業務も行うようになりました。自分でコントロールした方がデザインも作りやすいので、ディレクターの自分、デザイナーの自分、それぞれの動きに境界線はなく、流動的に延長線上でナチュラルに動けています。

他に表参道にあるギャラリー運営を手伝っていて、オフィスや公共空間にアートを導入するキュレーションのようなことも行っています。状況に応じた手法や問題解決を考えることも多くあるので、全体を俯瞰した見え方が重要になってくる。その結果、自分の作品を出展する際にも冷静に考えることができるようになりました。他のアーティストさんの作品を通して、自分に足りないことも見えてくる。そういう意味ですごくいい機会を与えてもらっています。

Art curation and art-related direction for the office “MISTO Tsukiji.”

――「肩書きのない自分」でいたいという思い

1つ自分の軸として持っているのは、抽象的でありたいということ。作品の中にあまり具体的なモチーフを入れない、入れてもシルエット程度にとどめる。はっきりした境界線を持ちたくない性格なんです。その時々でいろんなことをやっていたりするから、自分の肩書も決めてしまいたくない。決めすぎないのが自分の生き方というか性格というか。アーティストになりたいとか、デザイナーでいたいとか、そうした明確なラベルへの強いこだわりもなく、私を知ってくれる人たちが肩書をつけてくれればいいかな、後からついてくればいいのかなって。あ、でもそれも困りますよね、アーティスト・グラフィックデザイナーということで今回はしておいてもらえれば(笑)

作品に対してもそういうところがあるので、抽象的なモチーフからそれが何なのかを、見ていただいた方に想像してもらえたら嬉しいなって思っているんです。

――今後の展望は?

とにかく表現の幅を広げたい。なので、制作活動をもっとやっていきたいですね。新しい表現や違う可能性も探れればと思っています。画材を変える、手法を変える、2Dにこだわらず、他の何かと掛け合わせていくとか。

あとはイベントごとにももっと絡んで、活動の領域を広げていくこともこれからの目標です。

個展やグループ展もまたやろうって思っています。1年後とかその先になりそうで、今はまだ何も決まっていない状態なんですけどね。

Artwork for the Sigur Rós’ Asia tour gig poster with an Orchestra
Artwork for ART&SCIENCE FESTIVAL at Expo Commemorative Park in Osaka

渡辺明日香 プロフィール:
多摩美術大学 造形表現学部でデザインと美術を学び、広告プロダクションやデザイン事務所での経験を経て、現在はフリーランスとして活動するグラフィックデザイナー・アーティスト。デザインとアートの境界を越えて多様なプロジェクトに携わり、独自のスタイルを確立している。

彼女の作品は、幾何学的でありながら抽象的な画面構成と鮮やかなカラーパレットが特徴で、見る者に強い印象を残す。表現方法も一定にとどまらず、その時々のインスピレーションや感情を大切にし、作品ごとに新たな表情を持たせている。

「横断的」であることは彼女の創作における重要な要素であり、デザインとアートの境界を超えた新たな表現を追求する姿勢が活動の中核を成している。FUJI ROCK FESTIVALとのコラボレーションなど、多彩なプロジェクトを通じて、確かな技術と独自の表現力で評価され、国内外で注目を集めている。

WEB:https://asukawatanabe.com/
Instagram:@asuka_afo

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