FEATURE|自由をセラミックで体現するアーティスト・ミチコ セキ

色とりどりのセラミック作品は、折れ曲がっていたり、半分になっていたり、くり抜かれていたり、一つとして同じものがない。見るだけで自然と笑顔になるような作品を生み出すのは、アーティスト・ミチコ セキ。パリでの生活を経て、3年前に東京に戻ってきた彼女の手から生まれる作品は、常に人々を魅了している。
麻布台ヒルズにあるザ・コンランショップでは、11月24日(日)までポップアップ「Ceramichi Pop Up」が開催中。今回はこのポップアップと、彼女のアトリエでのインタビューを通して、作品の魅力や創作に込める思いを聞いた。

ザ・コンランショップにて2回目の開催となる今回のポップアップでは、新作や限定コレクションを含めた作品がフルラインナップされている。テーブルや壁一面に並べられたセラミック作品はキラキラと輝き、通りがかる人々の足を止める。お皿や器にはワンプレート用、スープ用、デザート用など用途が決められたものが多いなか、ミチコ セキが創り出す作品には用途が定められていない。食器の概念を変えるその形状には、「カテゴリーがないものを、その人らしく取り入れてほしい」という彼女の想いが込められている。

オリジナリティ溢れる形の始まりは、窯からお皿を取り出した時にたまたま端が折れ曲がっていたこと。「そもそもなぜ折れ曲がっていたらダメなの?曲がっているということが“想定外”だから残念に思うけれど、それを受け入れれば一つの個性になる」と彼女は語る。まっすぐでなければいけない、均等でなければいけない等という先入観を見直し、どんな形や色があっても良いと考える姿勢は作品をより華やかにする。枠にとらわれない彼女の挑戦は今なお続いている。

中目黒の川沿いにある、ミチコ セキのアトリエとショップ。この敷地に一歩足を踏み入れると、不思議とゆったりとした時間の流れを感じる。「村なので」と語る彼女の言葉通り、道を行き交う人、店に出入りする人、顔見知りの人達が自然に交差しながら、温かい空気が辺りを包み込んでいる。

長らくのフランス生活を経て、今東京で彼女が創り上げるものとは何なのか。今回はこのアトリエで、活動の始まりや日々の創作について、また2022年に立ち上げたフラワーベースのブランド「𝖲 𝖺 ï (サイ)」についてを話を聞いた。

――セラミックで創作をしようと思った最初のきっかけは?

子供の頃から、建築やインテリア、ファッションがすごく好きだったんです。それに母が絵を描いていたので、家の中にアートもありました。自分自身は絵を描くことに対してコンプレックスがあって、絵じゃない何かクリエイティブなことで、得意なことを見つけたいという思いがありました。
それに不思議な確信もあったんです。今現在やっているような、セラミックを使ったクリエイティブをするということを最初から「知っていた」ような感覚でした。そんなことを言っても意味不明だし、 スピリチュアルなことを言いたいわけではないのですが……。学校で図工の授業ってあるじゃないですか。そこで粘土をいじっている時に「これだ!」と思ったんです。「これを使って、私なんでもできちゃう」っていう。自分の中で確かに確信があって、あとはそれを始めるだけという感じでした。
あと実家ではよく人を招いてご飯食べたりもしていて、みんなでテーブルを囲んで生まれるハッピーな空間がとても好きでした。家族や友人、近所の人が自然な形で集まることもあれば、食事会もあって。そこに食いしん坊というのが重なって、お皿というものに興味が沸いたのかもしれません。

――セラミックはご自身にとってどのような存在ですか?

自分とイコールな存在ですね。ブランド名の「セラミチ」は、セラミックの“セラ”と、自分の名前から“ミチ”をとって名付けています。私とセラミックがイコールであるということが、しっくりくるんです。つまり私が見て感じていることが、そのまま作品になっているのだと思います。創作においてオンとオフはなく、普段の生活で興味を持ったものが作品に生きています。

――ではインスピレーション源は、普段の生活から?

そうですね、もう何もかもです。インスピレーションを受けるシーンについてはよく聞かれるんですけど、私は常にその状態にいるので、一部を切り取ることができないんですよね。こうして喋ってる時も、ご飯を食べてる時も、夢の中でも、常にインスピレーションを受けています。

――フランスにいた頃と東京に戻ってきてから、作品に変化はありましたか?

ありましたね。フランスに住んでいた頃の作品を見ると、その土地や文化から受けたインスピレーションが形になってるなと感じるし、東京に来てからは以前は無かったような色や形が現れてるなと思います。

――今の作品にある鮮やかな色使いは、東京に来てから?

そうです。フランスでは伝統を重んじていて洗練されたものを良しとする文化があるのですが、日本ではファッションにしてもアートにしても、自由に楽しんでいる部分がありますよね。それを自分も作品で表現している気がします。お皿も同じで、割れているものや折れ曲がったものは自由で新しさがあるし、面白い要素が隠れているのだと思っています。こうあるべき、という形に当てはめるのではなく、その美しい個性を大切にしています。

――整っていない部分もひとつの魅力ですね。

日本だと野菜にしても果物にしても、規格をはみ出さない綺麗な形で、傷やシミもなく均一なものが多いですよね。フランスでは形も色もバラバラだし、なんなら泥や枯葉がついていたりするんです。私は欠けたお皿も好きだし、その良さをお客さんにも提案しています。もしかしたらそれを不完全だと言う人もいると思うけれど、きちっと綺麗じゃなきゃいけないという考えに対して、私は疑問を感じるんです。不完全な部分って、私からしたら長所なので。

ミチコ セキが「私にとっては宝物なんです」と語る、セラミックの破片。パーツをつけると素敵なアクセサリーになる。

――創作の上で、特に心がけている事はありますか?

手で作るものって、自分らしさが手から滲み出る気がするんです。例えば、フランスに住んでいた時はレストランのオーダーメイドの食器を制作していたのですが、よく「どこに自分らしさを出したんですか?」と聞かれていました。でもレストランのお皿はそのレストランやシェフが主役だから、私は自分らしさを出そうとは思ったことがなかったんです。それに自分の手で作るから、わざわざ自分らしさを出そうと思わなくても十分だなって。ただ、美しいものを作るためには美しい心を持っていたいなと思っています。美しい心で美しいものを見ていれば、創作の時にそれが手からにじみ出て、いい作品になるはずです。

――2022年にフラワーベースのブランド「𝖲 𝖺 ï (サイ)」を立ち上げられていますが、フラワーベースに特化した理由とは?

お花が好きで、フランスに住んでいた時からよく買い物の帰りに花を1本買って帰っていました。でも日本では特別な日にお花を買っても、日常的に買う人はあんまりいないですよね。もっとお花をライフスタイルの中で楽しんだらどうかなって思ったんです。
今まではお皿とかオブジェを作る中の一つとしてフラワーベースがあったのですが、“セラミックアーティストが花瓶も作っている”という状況から、一つのブランドとして見てもらえるようしたくて、フラワーベースに特化したブランドを立ち上げました。

――今後の活動について。

「MoMA Design Store 表参道」では、作品の販売をスタートする12月26日からポップアップも開催します。まだ制作には取り掛かっていませんが、ピカソとか、モディリアーニとか、そういった芸術家の作品のオマージュのような形で作品をデザインしたいなと考えています。

Ceramichi(セラミチ):
アーティスト、ミチコ セキによるセラミックアート。 パリではミシュランの星付きレストランやホテルからオファーを受け、シーズン毎にオーダーメイドの食器を製作。 実用性を備えたアートピースの器シリーズを始め、お皿のかけらをモチーフにしたジュエリーや、花器・オブジェなど、食器の概念にとらわれない自由なデザインで、クラフトにもファッションにもカテゴライズされないアートワークを展開する。また𝟤𝟢𝟤𝟤年よりフラワーベースの新しいライン  « 𝖲 𝖺 ï (サイ) »をスタートし、新たな活動の場を広げている。
https://ceramichi.art/

ミチコ セキ プロフィール:
東京都まれ。大学休学中に渡仏し、𝖠𝖱𝖳𝖲 𝖤𝖳 𝖳𝖤𝖢𝖧𝖭𝖨𝖰𝖴𝖤𝖲 𝖢𝖤𝖱𝖠𝖬𝖨𝖰𝖴𝖤 D𝖤 𝖯𝖠𝖱𝖨𝖲卒業後「𝖢𝖾𝗋𝖺𝗆𝗂𝖼𝗁𝗂」を立ち上げ独立、以後レストランやホテルにオーダーメイドの器を創作する。2020年より拠点を東京に移し、アートピースの器を制作する一方、インスタレーションによる展示やファッションブランドとコラボレーションする等、日常をアートに変えるUnique piece =1点もののクリエーションをテーマに、枠にとらわれないクリエイティブな活動をしている。

>QUOTATION FASHION ISSUE vol.40

QUOTATION FASHION ISSUE vol.40

The Review:
FW 2024-25 WOMENS / MENS
PARIS MILAN LONDON NY TOKYO
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服に封じられた謎、即刻解いてみせます
但し、最後の一行まで読んでくれるなら

The interview
真理、逆説、仕掛け、設計…
すべてが超一級の現代のミステリオーソたち
Y/PROJECT Glenn Martins
NAMACHEKO Dilan Lurr
mister it. 砂川卓也
Fashion Journalist Asley Ogawa Clarke
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