FEATURE|パリを拠点に活躍する、ヘアスタイリスト 大島みはるにインタビュー。エクステを再利用して制作するアクセサリーとは
フランス・パリを拠点に活躍するヘアスタイリスト・大島みはる。その仕事の幅はモード誌や広告にとどまらず、映画やドラマにまで及ぶ。彼女がヘアスタイリストとして活動する傍ら、「日常の装えるアート」として2017年にスタートさせたのが、髪を使ったアクセサリーブランド「Coloré(コロレ)」。2024年11月、中目黒にある美容室「Kisai BUZZ」にて開催された展示会「Coloré by Miha」では、一度使用されたエクステを丁寧に染めあげ、新たに命を吹き込んだヘアアクセサリーやイヤーアクセサリー等が、ファッション写真と共に展示されていた。
海外に渡り、独自にキャリアを積み上げてきた大島。この展示を機に、彼女がヘアスタイリストを目指したきっかけや、日本からパリを目指した理由、過去と現在の仕事、そして「Coloré」を始めた理由やその制作工程について話を聞いた。
これまで
――ヘアスタリストを目指そうと思ったきっかけは?
父が美容師で、中学生の頃からヘアメイクの基本を教えてもらっていました。でも私はもともと絵を描くのが好きで、アーティストになりたかったんですよね。それで父に相談したら、アートにしてもヘア(美容師)にしても、習うならパリに行きなさいって言われたんです。
それで大学を卒業して、パリに行きました。日本では父の美容室で働いた経験があったので、初めは語学学校に行きながら美容室に勤めて、その後パリ 第8大学の美術科に入学しました。当時はアーティスト活動をしながら、同時にファッションにも憧れを抱いていたので、アート性の強いファッション業界のヘアスタイリストをやりたいなと思ったんです。それが今の仕事を目指した最初のきっかけですね。
アシスタントから始めて、徐々にシャネルやディオールのようなファッションウィークの主要ブランドで活躍しているヘアチームに参加するようになり、広告撮影や、雑誌の撮影にも携わることができました。現在もモード系の仕事は続けていますが、ここ5年くらいは映画の仕事の割合が大きくなってきています。
――パリに行ったのはいつ頃ですか?
24歳の頃ですね。日本ではインターナショナルスクールに通っていて、フランス語は第二外国語で勉強していたので、少しは理解できていました。でも一度自分のフランス語が通じなかったことがあって、それがショックで本場のフランスでフランス語を特訓したいなという思いがあったんですよね。
渡仏した当時は全然裕福ではなかったですが、ただただ楽しかったです。色んな人に出会えるし、すごく世界が広がったというか。
映画・ドラマの仕事について
――映画やドラマの仕事をしようと思った理由や、その経緯とは?
自然な流れでした。ファッション系の仕事をしていると世界中の美容師さんと繋がるんですが、今回もある美容師さんと知り合って、彼に紹介してもらったのがNetflixで配信されているテレビドラマシリーズ『エミリー、パリへ行く』(以下:エミリー)のヘアスタイリストの仕事でした。彼は主演・エミリー役のヘアを担当している方だったんです。それまではほとんど映画やドラマの仕事はやったことがなくて、実際に話を頂いたことはあっても、経験がないという理由でお断りしたりしていました。でもエミリーは作品自体がファッション性の高い内容で、映画の経験がなくてもファッション的な感覚がある人を探していると聞いたので、ラッキー!と思って結構熱を入れて先方とお話したら、参加へのオッケーを頂けたんですよね。
――実際にエミリーの仕事はどうでしたか?
楽しくて、大変でした。衣装とかテーマとか、その俳優さんの顔にあった髪型で、他のキャラクターと被らないスタイルをみんなで相談しながら進めるんです。ヘアチームにはスーパーバイザーを担っている“シェフ”と呼ばれる人がいて、その人を中心に相談しながら組み立てていきます。でも結局、ヘアスタイルが決まるのは撮影当日なんです。やっぱり俳優さん自身がキャラクターを演じるので、ヘアスタイルも基本的には彼らの意見を尊重して進めていきます。
――担当する登場人物、カミーユのヘアスタイルについて。
実はシーズン4のカミーユのヘアは全部ウィッグなんですよ。今回は、カミーユを演じた俳優さんが別の作品の撮影も並行していて、その時の髪色があまりにカミーユの役柄とイメージが違いすぎるのでウィッグにしようということになったんです。でもウィッグだとぴっちりと結えたルックはできないんですよね。緩く結えたり、おろしたスタイルを作りました。
――これから映画のお仕事がさらに増えていきそうですね。
エミリーの仕事をしてから、新たにいくつかお声がけを頂きました。チームワークで一つの作品を作り上げる感じが好きで、映画やドラマの仕事はやっぱり面白いなと感じるので、これからもっと携わっていきたいです。あとは映画祭とかイベントも積極的にやっていきたいなと思っています。
髪から作るアクセサリーブランド「Coloré」について
――エクステを再利用したいと考えた経緯とは?
もったいないなと思ったのと、ファッション業界の廃棄物を減らしたいなと思ったんです。雑誌の撮影やショーではエクステを使う機会が多いのですが、毛先を切ってしまっていたり、糊がついていたりするので、一度使ったものはもう利用できないんですよね。そうすると結局ゴミになっちゃうじゃないですか。ファッション業界に身をおいていて、そういう部分に疑問を抱いていたんです。その気持ちをアクションに繋げられたらと思って活動を始めました。以前は新たに材料を買ってアクセサリー作りをしていましたが、今は仲間の美容師さんに使わなくなったエクステをもらったりしています。
――アクセサリーの制作過程について。
カラーのインスピレーションとしては、例えば夕焼けを見た時や、海の色を見た時に写真を撮ってそれをインプットしたりしています。あとはお花とか、ヒントになるような色を見つけた時にそれを記録しておいたり。染色方法はとてもアナログです。ビビットな色味は「マニックパニック」とか「クレイジーカラー」などのヘアカラークリームを使って、絵の具を混ぜるように理想の色を作って表現しています。
形のアイデアは色々と湧いてくるので、ネックレスとかイヤリングとか、思いついたものを形にしています。
――最近制作したものは?
乳がんの啓発を目的とした「ピンクリボン月間」に合わせて、ピンクリボンをモチーフにしたアクセサリーを作りました。そのプロモーションとして、知り合いのダンサーの方にそのアクセサリーをつけて踊ってもらえないかお願いしたところ、その方が別のダンサーを連れて来てくださいました。その方は髪を短く刈った、がんサバイバーの方でした。後でお話を伺ったら、「これをつけた時にすごいパワーを感じた」とおっしゃっていたんです。「これをつけることで髪に触れられて、元気がもらえた」って。その言葉を聞いて、そんなこともあるんだと実感しました。
それから、病院で治療を行っている患者さんに会いに行きました。作ったアクセサリーをプレゼントしたら患者さんたちはとても喜んでくれて。そこで働く看護師さんも、髪を失って自信がなくなっている患者さんもいるから、これは本当に素敵なものだと言ってくださいました。あと、がんの治療で髪を失った人に対して、周りの人が何を話したらいいか分からずに会話がなくなってしまうことがあるみたいなんです。でもこういうアクセサリーがあるだけで会話のきっかけになるし、コミュニケーションが生まれてすごくいいですねって言われて。それがとても嬉しかったです。自分がやりたいことをやっていると、予想外のことも起こるんだなと思いました。
――ご自身にとって、ヘアスタイリストの活動やアクセサリー作りはどのようなものですか?
アートとかファッションって、生きるために必要ではないけれど、あったほうがちょっと楽しくなったりするじゃないですか。それが「こんなファッションしないよね」とか、「変だよね、恥ずかしいよね」って言って、「これが普通だ」というものが生まれると、ただただパターンをリピートしてることになってしまうんですよね。でも今までの固定観念を破ってこそ楽しくなるのがアートやファッションだと思うので、そういうものを作りたいなと思っています。
あとは生きている上でもそういう態度ってすごく大事じゃないかなって思うんですよね。「こんなことやらないよね」とか、「周りが言うからこうだよね」とか、そうじゃないよってことを言いたいです。そういうきっかけ作りができたらなと思っています。
大島みはる プロフィール:
1989年に渡仏。2000年頃にヘアスタイリストとしてのキャリアをスタートさせる。パリ、ミラノ、ニューヨークのファッションウィークにて、有名メゾン(シャネル、エルメス、ジャン=ポール・ゴルチェ 等)のショーを経験。現在は著名人のプライベートヘアスタイリスト 他、雑誌(ELLE、VOGUE、MADAME FIGARO等)、カンヌなどの映画祭、広告、テレビ、映画にてヘアを担当している。2022年より Netflixシリーズ「エミリー・イン・パリス(邦題:エミリー、パリへ行く)」のメインヘアチームに入り、米国エミー賞のベストコンテンポラリーヘア賞にノミネートされた。