FEATURE|“文化のファブリック”を織りなすアーティスト、ジャヌアリオ・ジャノ

FEATURE|単独個展「Otherness: An Inventory of Desire (The Sunset)」を開催中のアンゴラ出身のアーティスト ジャヌアリオ・ジャノにインタビュー

ジャヌアリオ・ジャノ

アンゴラ、スペイン、イギリスの3か国を拠点にしながら活動するアーティスト、ジャヌアリオ・ジャノ。彫刻やビデオ作品、写真、インスタレーションそしてパフォーマンスなど、幅広く作品制作を行っている。

日本では初めての単独個展開催となる今回。展示される作品には、彼の出身国であるアンゴラの歴史を象徴する素材が使用されている。その一つは大きな袋状の作品「ムポンダ」。ムポンダとは、主にアンゴラのアンブンドゥ人が個人的な思い出の詰まったものを入れるために使用するベルト状の木綿の袋を指している。
次に「パノパノ」。“パノ”とはアンゴラにおける布を意味しており、今回の作品もワイヤーで短いパーツがつなぎ合わされた一枚の布のような作品となっている。
そして「ンガベ」。これは「ムポンダ」の身体の一部のように解釈された作品であり、その中には彼の記憶に紐づくような布の素材やテキスタイルの端切れが詰められている。表面にびっしりとつけられたビーズはかつてアンゴラでは主要な産業として制作されていたものだったが、時代が進むにつれ、いつの間にか奴隷貿易の通貨に使われるようになってしまったという暗い歴史がある。

今回はこれらの作品をもとに、個展開催に対する思いや、展示作品の創作過程、そして自国アンゴラにおけるアートシーンについて、ジャヌアリオ・ジャノに話を聞いた。

左:「ムポンダ」 / 中央:「ンガベ」 / 右:「パノパノ」
Photo by Ryo Yoshiya

――初めて日本で単独個展を開催することについて、どのように感じていますか?

初めての来日なのでとても楽しみにしていました。もともと日本に来てみたいと思っていましたし、日本の文化にすごく興味がありました。
日本だからといって特別に期待していたことはなかったのですが、まずは来場する方々に楽しんで観て頂きたいです。そして同時に「作品の二重性」に注目してほしいと思っています。作品の見た目は美しいですが、その背景にはアンゴラの持つ暗い歴史や、痛みを伴うような意味が込められています。表面的な部分だけではなく、そこにある物語も踏まえて観て頂けたら嬉しいです。

――本展のタイトル「Otherness: An Inventory of Desire (The Sunset)」(=「個人のアイデンティティや欲望が、他者による介入と複雑な社会的記憶なしには成立し得ない」)に込められた意味について教えてください。

タイトルの最初に「Otherness=他者性」という言葉を使っています。例えば自分が移動したり、文化が移動したりすると様々な人と触れ合うことになるわけですが、その中で自分が他者になることもあれば、他者からの影響で自分が変わることもあります。触れ合いの中で文化的なアイデンティティが形成されていき、そこから「他者性」を感じられるようになるのです。文化が違うと考え方に違いが生まれ、物事の理解の仕方も変わったりします。そういった考えから、この言葉をタイトルの中に選びました。
また「Sunset=日没」ですが、アンゴラで太陽はとても哲学的で特別な意味を持っています。日が登ってまた沈んでいくというシステムの中に、自分たちがどこから来たのかを知ることができるという考えがあるのです。アンゴラの人々にとって、太陽は文化的なアイデンティティの一つであり、新たな文化の生産や、自分たちの土地の記憶の象徴とされています。

Photo by Ryo Yoshiya

――今回の作品制作において、特に印象に残っていることは?

「パノパノ」の制作がとても印象的です。悪夢を見るくらいすごく大変だったので(笑)。これは全て手作業で制作しています。まずワイヤーを切って丸めていくのですが、その作業にとても苦労しました。そこからワイヤーに糸を巻く作業を約2週間かけて黙々と進め、その後作品に長さを持たせるために一つずつ銅線を巻いて繋げる作業に移りました。当初は出来上がった作品を天井から吊るそう思っていたのですが、作業を進めるうちにこれはあまり良くないアイデアだなと思い始めて。新しい方法を試しながら、最終的には一枚の布として壁に展示することにしました。

――創作において影響を受けているものはありますか?

やはり一番は自分が育った文化的背景です。私は文化的なアイデンティとそれが成立した場所、またそれがどこから来たのかということをずっとリサーチしていて、そのリサーチに基づいて作品を制作しています。個人史や記憶、生活、自分が今いる場所とは違う場所にアイデンティティがあるのではないかというような感覚、植民地の歴史そのもの、世界の歴史。そういったものに対するリサーチと自分の感情が結びついて、大きなインスピレーションになっています。
また様々な国を移動するとそこで得られる文化的要素があり、まるで一枚の布を作り上げるようにそれらを繋ぎ合わせています。人々が作品に出会うとそこに物語が生まれ、その物語を追加していくことで、徐々に作品が変化していく。そして次の場所に行った時にはまた新たな物語が追加され、作品はさらに違った形となっていくのです。それを「文化のファブリック」と呼んでいます。今回の個展もその一部になります。

Photo by Ryo Yoshiya

――アンゴラにおける現代のアートシーンはどのようなものですか?

アンゴラでは過去に内戦が起きており、独立後も国内は長らく混乱した状態だったのですが、終戦後には経済成長が始まり芸術も活性化されました。しかし4〜5年前に政府の方針の転換があり、文化面が大きな影響を受けるようになり、それまで開催されていた芸術祭なども現在では開催されなくなってしまったのです。
そのほかにも様々な問題を抱えています。その一つとして、大学等の高等教育機関はあるもののカリキュラムが整備されておらず、ハイレベルな美術の教育を受けられる機会がないということ、そして芸術に触れられる施設が国内にないということが挙げられます。最近はインターネットなどの技術的な進歩によって、徐々にアンゴラに住む人たちも芸術に触れられるようになってきてはいますが、未だその機会は限られています。

――今後の活動について

自分はその日にどんなことがしたいのかを考えながら実行していくタイプなので、とにかく今やってることを続けていきたいと思っています。
現在4つの展覧会を進めています。東京で開催している本展と、その後に控えている「Otherness: An Inventory of Desire (After the Sunset)」というイギリス・ロンドンでの展示、そしてポルトガル・リスボンとアンゴラ・ルアンダでの展示です。アートフェアへの参加予定もあって、精力的に活動をしています。「続ける」ということ自体が自分の活動の主体なので、これからもリサーチに基づいた実践を続けていきたいです。


ジャヌアリオ・ジャノ(Januario Jano) プロフィール:

アンゴラ・ルアンダ出身。Goldsmiths, University of Londonで美術修士号を取得し、イギリス・ロンドン、アンゴラ・ルアンダ、スペイン・マドリードを拠点とするビジュアル・アーティスト。彫刻、ビデオ、写真、テキスタイル、サウンド・インスタレーション、パフォーマンスなど、幅広い分野で活躍している。 彼は虚構と現実の微妙なバランスの仮説に注意を向け、故郷と自己の概念について考察し、世界の経済、文化、人口の相互依存の高まりの中で、歴史的、現代的な物語に絶えず挑戦している。また、文化生産とアイデンティティに関する探求を深めることに関心を持っている。


「Otherness: An Inventory of Desire (The Sunset)」

会期:2024年9月7日(土)〜10月14日 (月・祝) 
定休日:月曜日 ※月曜日が祝日の場合は翌日休業
会場:Gallery & Restaurant 舞台裏 
住所:東京都港区虎ノ門5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザA B1F 
時間:11:00〜20:00 
WEB:https://artsticker.page.link/Jano_butaiura

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