MUCA|テレビ朝日開局65周年記念「MUCA(ムカ)展 ICONS of Urban Art 〜バンクシーからカウズまで〜」会場レポート&インタビュー

MUCA|テレビ朝日開局65周年記念「MUCA(ムカ)展 ICONS of Urban Art 〜バンクシーからカウズまで〜」テレビ朝日開局65周年記念「MUCA(ムカ)展 ICONS of Urban Art 〜バンクシーからカウズまで〜」 をレポート。創設者の一人、ステファニー・ウッツへのインタビューも

ヨーロッパにて高い人気を誇る現代アートに特化した美術館「Museum of Urban and Contemporary Art(MUCA)」が、日本で初となる展覧会を大分、京都に続いて森アーツセンターギャラリーにて6月2日まで開催中。カウズやバンクシーなど、日本でも熱い視線を浴びるアーティストの作品が間近で鑑賞できる貴重な機会となっている。

今回はMUCA創設者の一人、ステファニー・ウッツの作品解説とあわせて展覧会内部をレポートする。あわせて彼女への特別インタビューも敢行し、展覧会にかける想いを聞いた。

展覧会のスタートは、ブルックリンを拠点に活動するアーティスト、カウズのアイコン的キャラクター「コンパニオン」の半身が解剖された作品「4フィート・コンパニオンディセクテッド・ブラウン (4フィートのコンパニオン解剖されたブラウン)」から。様々なメディアで取り上げられている作品だけあってその存在感は大きく、早速人々が足を止めて鑑賞していた。

カウズ(KAWS)
「4ft Companion (Dissected Brown)」

次の空間の中央にあるのは「カウズ・ブロンズ・エディション #1-12」。小さなブロンズのコンパニオンたちが、寝転がったり、立っていたり、様々な姿をしている。ステファニーはこの作品について、「人間のあり様でもあるように、涙、笑い、恐怖など、 そういった表情が細かに表現されていています」と語る。

KAWS(カウズ)
「KAWS BRONZE EDITION #1-12」

続けて、ステファニーが「画法が非常に面白いです。 何層も重ねて絵を仕上げていく、そして様々な素材を使う方でもあるので、いわゆるミックスメディアアーティストとして定義づけられています」と解説するのは、スケートボードシーン出身のアーティスト、シェパード・フェアリーの作品群。シェパードはボブ・マーリーやジミ・ヘンドリックス、キング牧師など、様々な有名人や著名人をモチーフにしたアートワークで知られる。暗い空間に浮かび上がる作品は重厚な雰囲気を放ち、描かれている人物の功績や偉大さを語っているようにも感じられる。

SHEPARD FAIREY(シェパード・フェアリー)
作品群

その次にあるのは、女性ストリートアーティストの第一人者として知られているスウーンの作品群。彼女は男性アーティスト中心のストリートアート界で認められている、数少ない女性アーティストの一人だ。

「ストリートアート、アーバンアートといえば、ステンシル画であったりスプレー缶などを思い浮かべると思うのですが、彼女の作品からは多様な素材が使われていることが見受けられます。 紙であったり廃材の木材、あるいは金属材を使ってアートを作っているのが彼女の作品の魅力です」とステファニーが解説するように、ストリートアートでは稀に見るような繊細さを感じる。

SWOON(スウーン)
「Time Capsule」

展示会場はさらに奥へと続いていく。ここでバンクシーと並ぶ覆面アーティスト、インベーダーの展示エリアに到着する。70・80年代のビデオゲームに影響を受けているインベーダーは、8bitのデジタル表現でモザイクタイルアートを世界の至る所に残している。また90年代からは短期間で街中に作品を出現させる「Invation(侵略)」プロジェクトで、リアルな作品とデジタルゲームを融合させてきた。

「彼のアートワークはこうして街中に出没するのですが、それがうまい具合にデジタルゲームのようにも展開されているのです」。

今回は、ルービックキューブを使いパンク・ロックバンド「sex pistols」のベーシスト、シド・ヴィシャスを形作った作品「ルービック・アレステッド・シド・ヴィシャス (ルービックに捕まったシド・ヴィシャス)」が目を引いた。横からみるとそれがルービックキューブの集合体だということがよく分かる。

INVADER(インベーダー )
「Rubik Arrested Sid Vicious」

順路に沿って進むと、1980年代初頭から活動をスタートした元祖ストリートアーティスト、リチャード・ハンブルトンの作品を鑑賞できる。バンクシーやインベーダーが活動する前から、キース・ヘリングやアンディー・ウォーホルとともに一斉を風靡していた彼だが、そのキャリアは山あり谷ありだったという。今から15年ほど前にリバイバルを遂げたのだが、残念ながら2017年に亡くなった。

ハンブルトンがなくなる直前に、MUCAでは彼にフォーカスした展示を企画していたという。生前にそれを実現することは叶わなかったのだが、今回の展示についてステファニーは次のように語る。

「彼の活動を誇りに思っていますし、注目されるべきアーティストだと思っているので、こうやって日本でご紹介できることをとても嬉しく思っているんです」。

RICHARD HAMBLETON(リチャード・ハンブルトン)
「Five Shadows」

写真作品も会場では展示されている。世間から見向きもされないような貧困層の人たちに焦点を当てたJRの作品は、深く考えさせられるものだった。

「JRの作品がなぜ注目されているのかというと、彼は貧困街に住んでいるような声なき人たちに、その声を与えることを一つのモットーにしてきたからです。ここに住んでいる子どもたちは自分で声を上げることはできない一方、メディアでは犯罪者扱いされている。そんな彼らを前にしてシャッターを切っていたのです」。

続けて、男性がこちらに銃を構えたような写真作品。

「こちらの作品は一見、銃を構えているように見えますが、実際は武器ではないんです。手に持っているものは何かというと、カメラなんですね。メディアで報じられていることを鵜呑みにすれば、真っ先に銃を構えているに違いないと思い込んでしまうでしょう。我々はいろんな先入観や偏見を持っているわけですが、JRはそれらを打ち砕くことをモットーにしているのです」。

JR(ジェイアール)
「28 Millimètres, Portrait d’une génération, Braquage, Ladj Ly vu par JR, Les Bosquets Montfermeil 2004」

そして、この展覧会のトリを飾るのがバンクシーの作品群だ。ストリートの一角に突如として描かれる作品が大きな話題を呼ぶバンクシー。今回は人々に広く知られている作品を集めて展示しているという。

会場で目を引くのが、ディズニーの人気キャラクターをモチーフにした「ARIEL」だ。これはイギリスのウェストン=スーパー=メアにて、2015年の8月から9月にかけて開催された“悪夢のテーマパーク”「ディズマランド」で公開された作品の一つ。なぜこのような歪んだアリエル像が完成したのか。現代社会への警告を鳴らすバンクシーからのメッセージを、鑑賞者それぞれが感じ取ることができるだろう。

BANKSY(バンクシー)
「ARIEL」

「彼が制作しているのは一見シンプルですぐに作れるようなアートですが、実はその訴えの声は非常に深いのです」とステファニーが語る先にあるのは、バーコードの下にサメが隠れた様子を描いた「Barcode Shark(バーコードシャーク)」。彼女がお気に入りだと語るこの作品にも、社会に対するメッセージが隠されている。

「こちらのバーコードシャークは、西洋社会に蔓る資本主義であったり、大量消費主義を批判しています。バーコードであなたの消費活動がトラッキングされていますよ、あな​​た方の消費行動にも影響を与えますよというメッセージで、サメの形をしたバーコードがその背後からそっとやってくる。気をつけないと捕まるよ、という警鐘を鳴らしているのです」。

BANKSY(バンクシー)
「Barcode Shark」

一度は目にしたことのあるような有名作品が並ぶ空間を抜け、最後に現れたのは2018年に大々的なニュースとなった作品「Girl Without Balloon」。これはオークション会場にて落札されるも、直後にシュレッダーにかけられ、そのすぐ後の再オークションでは価格が跳ね上がったという逸話を持つ作品だ。今回は作品を所有するコレクターからの協力を得て、特別に展示されることになったという。

そもそもなぜこの作品はシュレッダーにかけられたのだろうか。その理由を、ステファニーはこう語る。

「創造活動とは破壊を伴うもの。破壊と創造を繰り返す中で、芸術活動は続いていくのです。その破壊活動は、その作品が唯一のオリジナルであることを証明する方法でもあります。『Girl Without Balloon』に関しても、そういう意図があったのではないかと思われます」。

BANKSY(バンクシー)
「Girl Without Balloon」(2018年) Private Collection」

MUCA創設者の一人、ステファニー・ウッツにインタビュー

今回の展覧会に際し、MUCA創設者の一人、ステファニー・ウッツに話を聞くことができた。ステファニーは夫のクリスチャンとともに2016年にMUCAを創設して以来、現代アートにおける20・21世紀の最も有名なアーティストの作品を収集・展示してきた。そのコレクションは現在1,200点以上に及ぶ。日本で初となるこの展覧会は、どのような想いで挑んでいるのか。

ステファニー・ウッツ

――今回のMUCA展でこだわった点はどこですか?

どんなエキシビションにも必ず言えることですが、やはり一貫したコンセプトが大事なので、今回もそこにこだわっています。また会場の雰囲気も作り込んでいます。どの部屋にもそれぞれの個性があるのですが、一通り見終わった後は一貫したエキシビションを見た、という気持ちになって頂けるのではないかなと思っていて、そこが魅力であると感じています。

――特にお気に入りのアーティスト・作品はありますか?

難しい質問ですが、3つに絞るとすると、1つめはスウーンの作品全般です。スウーンは女性アーティストで、非常にいいロールモデルです。私には若い女性アーティストに進出してほしいという想いがあるので、そんな気持ちからスウーンを応援したく彼女の作品を展示しています。

SWOON(スウーン)
「Ice Queen」

2つめはリチャード・ハンブルトンの作品ですね。ハンブルトンはもうお亡くなりになりましたが、アートやその歴史に詳しい人ならご存知かもしれません。彼はストリートアートのゴッドファーザー的な存在とされていて、多くのストリートアーティスト、アーバンアーティストたちの道を切り開いてくれた方です。そういう意味で、個人的にも注目しています。

RICHARD HAMBLETON(リチャード・ハンブルトン)
「Golden Shadow Torso」

そして3人目はやはりバンクシーですね。ステンシルアートで知られている彼が同時に偉大な画家でもあったということは、あまり知られていないのではないかと思います。今回はなかなか展示されることのないエドワード・ホッパーの「ナイトホークス」をモチーフにした油絵を展示していて、これは本展の隠れた注目作だと思っています。

BANKSY(バンクシー)
「are you using that chair?」

――今回の展示作品はどのようにセレクトされたのですか?

MUCAミュージアムには、1,200点というおびただしい量の所蔵コレクションがあるのですが、今回のように海外でエキシビションをするにあたってベストな作品はなんだろう、ということを考えながら選びました。ちょっと陳腐な言い方ですが、ストリートアートにおける“トップ10”的な存在のアーティストに絞って展示しています。その分野のアートに触れたことがない方でも分かりやすいように構成しているつもりです。

またなるべく多様な手法を紹介できるように、ということも心がけています。普通はストリートアートと言えばスプレー缶で描くようなイメージかもしれませんが、実はそれだけではなくて、例えばスウーンやバリー・マッギー、あるいはJRなど、様々な素材を使用しているアーティストの作品がありますよね。そんな作品から皆さんに刺激を与えられたらいいなと思っています。

BARRY MCGEE(バリー・マッギー)
「Untitled」
JR(ジェイアール)
「The Wrinkles of the City, Mr. Ma, Shanghai, China, 2010」

――日本では初開催となる今回、どのようなことに期待しますか?

私たちが抱いている情熱を感じてもらいたいです。また鑑賞者が新しい発見につながるような体験をして、何かを学び取って頂けたら嬉しいです。そして何よりも、ストリートアートに対する見方が変わるきっかけとなればと思っています。私たちがいるドイツでは、それらのアートはバンダリズムであると、否定的な見方をされてきました。正当なアートとして認められてこなかったのですが、私たちはそれに抗うために活動しています。彼らも他のコンテンポラリーアーティストたちと同じように評価されるべきだと思うからです。それなので長い年月をかけていろいろな作品をコレクションしたり、アーティストをサポートしたり、活動するための舞台を用意したりしてきたわけです。今回の展示会がストリートアートに対する偏見を覆し、打ち砕くきっかけになれば嬉しいです。

「MUCA(ムカ)展 ICONS of Urban Art 〜バンクシーからカウズまで〜」 
会期:2024年3月15日(金)〜6月2日(日) 
会場:森アーツセンターギャラリー 
住所:東京都港区六本木6丁目10−1 六本木ヒルズ森タワー 52階
主催:ICONS of Urban Art東京制作委員会
輸送協力:Lufthansa Cargo AG
企画制作:MUCA(Museum of Urban and Contemporary Art)
WEB: https://www.mucaexhibition.jp/

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