SIW|様々な角度から見る「渋谷」。ソーシャルイノベーションの祭典 SIW 2023

新たなアクションに繋がるアイデアが生まれる場「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA 2023」が開催

SIW 2023 エントランス

再開発が進む渋谷駅周辺。若者カルチャーの発信地と言われてきたこの街が、今まさに変化を遂げつつある。老朽化した小さなビルは少しずつ取り壊され、現代的で洗練されたビルが並ぶことで、新しい”渋谷”、そして海外から見る”SHIBUYA”がアップデートされていくかのように見える。しかしその表層的な変化だけが、本当に進化と呼べるのだろうか。そこに在る人、文化、ビジョンはどのように変化を遂げ、どのような未来へ進んでいくのだろうか。このSIW2023でその道筋のヒントを探してみた。

渋谷を起点としたソーシャルイノベーションの祭典「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA(SIW) 」は、新たなアクションに繋がるアイデアが生まれる場を目指している。6年目を迎える今年のタグラインは「YOU MAKE」。渋谷区、パートナー企業、学生など参加者全てが「つくり手」となることで、多様で多視点なアイデアや価値観が集まり、交流し、形になる場として開催された。期間は11月6日から11月12日の一週間、場所は渋谷区内の各地会場とオンラインにて配信。トークセッションやワークショップ、体験イベント、展示会、そしてネットワーキングなどを通し、渋谷の未来を参加者自身が捉え、考えるきっかけを創り出し、全会場の来場者とオンライン視聴者で延べ16.7万人が参加する大規模イベントとなった。

SIW 2023 会場全景

160を超えるプログラムが展開された今回。その中で注目したのは、渋谷の未来を想像する糸口となるであろうトークセッションだ。渋谷の街を形成するものは、そこにある建物だけではない。一つの手がかりとして、今回のテーマ「YOU MAKE」を意識しながら渋谷という街と向き合った。まずは渋谷独自の文化とその現状、そしてそこに存在する違和感について見ていく。

渋谷カルチャーとカオスの継承

多種多様な人々が集まる街だからこそ、次々に新しいカルチャーが生まれていく。そしてその文化が成熟する過程で生まれる課題もある。11月7日に開催された「シビック・クリエイティブ トーク 第1部:Co-Creative Transformation of Shibuya」では、現在の渋谷にあるカルチャーの現状、そしてそれらを継続するための手掛かりが垣間見えた。渋谷独自のカルチャーとして、「渋谷ハロウィン(通称:渋ハロ)」がある。2009年頃から仮装をした人々が集まり、徐々に規模が大きくなった渋ハロ。はじめは単純に仮装を楽しんでいたはずのイベントだった。しかしその後年を重ねるにつれ、徐々にスクランブル交差点での暴動が目立ち始めた。「現”在”美術家」として映像作家、グラフィックデザイナー、VJ、文筆家、大学教授など様々な領域で多岐にわたる活動を行う宇川直宏氏は、トークセッションの中で渋ハロについてこう言及した。「みんな違ってみんないいという発想のダイバーシティ的な世界観が、ハロウィン初期の渋谷にはあった。それがどんどん暴徒化して、仮装というクリエイティブが抜け落ちてしまった。とにかく人が集まるから行こう、というクリエイティブの無い空間になってしまった。」

左: 宇川直宏氏 右: 長田新子氏

今年2023年は渋谷区が公に「渋谷に来ないでほしい」というメッセージを発信した。すでに手をつけられなくなってしまっていた暴徒化を強制的に止められるという観点で賛成する声もあれば、一つのカルチャーとして成り立ちつつあった渋ハロを全く拒絶してしまうのは、ある意味「勿体無い」という観点で反対する声もある。

正解はないのだとしても、これから工夫していけることはあるのではないか。宇川氏は、「もともと多様性のある渋谷に心を打たれ、渋谷ハロウィンはその最たるものだったと思う。「秩序的な問題」と「カオス」をどう両立させるかということが、ストリートのクリエイティブに関わる一番重要なポイント。」と語った。また、デジタルテクノロジーを活用した創造活動を通じて、市民とアーティストの自立的な社会参画を目指すシビック・クリエイティブ・ベース東京(CCBT)のクリエイティブディレクター小川秀明氏は、「ルールではなくてシステムを作ることが大切。我々が考えなければいけないのは、みんなが創造的になることができて、安全な祭りとは何か、それを作るためのシステムとは何かということだと思う。」と、ルールやシステムを作ることで、みんなが安全に楽しめる場所が作れるのではないか、と語った。

禁止することは簡単かもしれない。しかしこれまでの経験を一概に否定してしまうのは、クリエイティブに富んだ渋谷らしくないようにも思う。渋谷らしい新たなルールやシステム設定ができるのではないか。集まる参加者の各々がモラルを意識し、自発的に行動していけるような取り組みを探していく必要がある。

多種多様な人々が仮装して集まり、思い思いに祝っていた本来の渋ハロ。その純粋な楽しみ方を受け継ぐ可能性は、もしかすると現実空間以外に広がっているかもしれない。今注目されている仮想空間で新しい体験を提供するXR、デジタル空間でのイベントや取引を可能にするWeb3。実環境に左右されず、世界各地から参加できる仮想空間が生み出す未来はどのような方向へ進んでいくのか。

XRとweb3が生み出す新たな可能性

現実の物理空間と仮想空間を融合させて、現実では知覚できない新たな体験を創造する技術であるXR。「VR(仮想現実)」「AR(拡張現実)」「MR(複合現実)」「industrial netaverse(産業用メタバース空間)」などがそれに含まれる。気軽に外に出たり人と触れ合ったりすることができなくなったコロナ禍で一気に需要が増し、認知が広まった印象がある。11月11日に開催された「XRで拡張する”都市”と”スポーツ”による新しい体験価値」では、XR技術が都市環境とスポーツ体験にもたらす新しい価値について、トークセッションが繰り広げられた。

左から: 馬渕邦美氏、渡邊信彦氏、豊田啓介氏、長田新子氏

トークの中で注目したのが、XRの中のVRとARを使い、飛行機で競う「エアレース」と「渋谷の街」を合体させたコンテンツ。実際は広い敷地でエアレースを行い、それを撮影した映像を大都会の中に落とし込む。リアルとリアルをそれぞれバーチャルとして組み合わせることで、新しい世界を生み出すのだ。これは多様なコンテンツに派生させることができる。例えば、世界の人気アーティストのコンサートを渋谷の中心で行うこと、もしくは街全体をミュージアムに変えることなど。リアルに人がそこにいる必要はなく、新しい渋谷を体感できる。この可能性は無限に広がっている。

一般社団法人渋谷未来デザイン事務局長で、SIW エクゼクティブプロデューサーを務める長田新子氏は、XRにおける今後の展望について、「街自体がメディア化してきて、従来よりも人が集まっている。その人たちにどういう体験を伝えるかというのが非常に大事になり、それによって街が活性化していく。やはりエンタメとテクノロジーは次なる要素を持っていると思うので、実験しながら社会にインストールしていくという事をやってみたいですね​​」と語った。始まったばかりの技術だからこそ、色々な実験を行いソリューションを見つけることで、未来のための大きな発展に繋がるだろう。

バーチャルの世界を駆使したり、自ら発信することで世界全体との繋がりがさらに深くなるこれからの時代。現実世界で個人情報の取扱におけるルールなどがあるように、インターネット上でも個人データの取扱ができるようにする必要がある。そこで今web3が注目されている。web3とは分散型のインターネットのこと。ブロックチェーンを基盤に、暗号資産やNFTなどのトークンを活用できるのが特徴だ。インターネット創成期がWeb1.0として、現在がWeb2.0、それに続く新しい時代という意味でWeb3.0と呼ばれている。そのweb3は今後のインターネット社会にどのように影響していくのか。

11月12日のトークセッション「web3でつなぐ渋谷とグローバル」の中で、KDDI株式会社 Web3推進部部長の舘林俊平氏は、web3の役割についてこう語っている。「はじめは企業がコンテンツの発信をするのみだったが、SNSの時代になって配信力のある人やインフルエンス力が強い人たちが発信するようになりました。今では生成AIなども生まれ、一般の人たちが何でも作って発信できるようになっています。それを支える文化としてWe3があり、推進しています。」

それを受け、一般社団法人渋谷未来デザイン プロデューサーのNORI氏は、現代について「全人類クリエイター時代」と語った。

AIの出現によって誰もが自由にコンテンツを生み出し発信できる世界になった今、新しいクリエイティブ創出と同時にweb3は欠かせない存在となりつつある事を再認識させられた。

バーチャルの世界を含めた都市の可能性拡大により、時間、空間、そして国境など、様々な制約が解かれる未来。多様な場所の距離が縮まることで、都市としてのアイデンティティが薄くなる可能性も考えられる。都市の魅力や、オリジナリティを確立をしていくために今後生まれるであろう様々なアイデアに期待をし、観測を続けていきたい。

可能性が広がる未来。それはテクノロジーの進化のみに留まらない。未来に生きるのは、今いる若い世代。彼らのための可能性を広げることこそが、未来への可能性を広げることに繋がるはずだ。

未来を担う若い世代のために

最新カルチャーやイベントなど、派手なトピックが注目されがちな渋谷。しかしそこには人々の暮らしも存在する。彼らのための環境整備についても同時に考えていく必要があるのだ。11月9日に開催されたトークセッション「Next Generations〜次世代が活躍するまちづくり」では、将来を担う若い世代のための環境整備について話し合われていた。

テニスプレイヤーであり、部活動改革プロジェクトにも携わる伊達公子氏は、子供のための環境作りの大切さについて、「子供には無限大の可能性があり、伸び代がすごくあるので、環境を整えることによって子供達の成長は必ずついてくると思う。上手く環境を整えながら、それを引き出せる人材が揃えば変化が起きるのではないかと思います。」と語る。

左: 長谷部健氏 右: 伊達公子氏

それでは広い土地を使うことが難しい渋谷において、環境を整えるにはどうするべきか。渋谷区長の長谷部健氏は、一昔前に東京体育館のあたりが壁打ちのメッカだったことに触れ「必ずしもテニスコートがなければいけない、という常識に囚われず、手軽に始められる手段で楽しめる方法があるのではないか」という旨を語った。また、伊達氏はフランス・パリではエッフェル塔の下でイベントが開催されていることを参考に、「渋谷だからこそ他にはない、ワクワクするような場所ができたら」と、クリエイティブに富んだ渋谷だからこそ、新しい場所を生み出せるはずだという期待を言葉にした。

場所や固定観念に囚われず、”どうしたら実現できるのか”という視点から未来を設計すれば、新しい道が開けるはずだ。新しいアイデアから今より少しでも良い環境を整えていくことで、若い世代が活躍する渋谷らしい未来が来ることを期待したい。

参加した各トークセッションからは、様々な角度から「渋谷」を見ることができた。現在直面している課題と新しい取り組みへの挑戦、そして未来への橋渡しのためにできること。常により良い方向に向かうためにディスカッションし続けることが大切だが、実際にそのためのアクションをとっていくことはさらに重要だ。今回の「YOU MAKE」というタグラインには、そこで生活する私たち自身が考え、より良い道を切り開いていくのだという意思を感じた。私たち自身が小さな行動を起こすことが、未来への大きな変化へとつながる。目に見える街の変化を見つめつつ、自分に今できる事を改めて考えアクションを起こしたい。

SIW 公式サイト: https://social-innovation-week-shibuya.jp/
アーカイブ映像: https://social-innovation-week-shibuya.jp/archive-report/

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