FEATURE|SPECIAL INTERVIEW WITH Julie Kegels

FEATURE|SPECIAL INTERVIEW WITH Julie Kegels

Photo: Wataru Murakami

Julie Kegels FW2024-25 Photo: Tom Delaisse

市場や世相を柱にした提言は果たして概念と成り得るのか。そんな疑心は細菌のようにパリでも蔓延している。それはパンデミック同様に厄介であり、それを肯定するかのような姿勢が蔓延っているという意味では、よりネガティブな状況下に陥りかねない。作り手が求める自由で奔放な精神は、どこに向かっており、何に思いを馳せているのか。ジュリ・ケーゲルは、1998年アントワープで生まれ、2021年にアントワープ王立芸術アカデミーを卒業。稀代のファッション教育者として数多くのファッションデザイナーの育ての親とされているウォルター・ヴァン・ベイレンドンクが最後に受け持った世代であり、その後は「メリル ロッゲ」、「アライア」などで経験を積み、2024-25年秋冬パリウィメンズ期間中にデビューコレクションを発表。その直前の彼女の過去と現在、その後を見据えた創作におけるフィロソフィーとアティチュードを語ってもらった。

ファッションショーをデモンストレーションしていた幼少期

――どのようにファッションと出会ったのか?

私はベルギーのアントワープで生まれ育ちました。物心がついた頃からファッションデザイナーになることを夢見てきました。それはアントワープ シックスの影響が大きいと思います。彼らはベルギーファッションの歴史そのもので、それに夢中なったことは今でも鮮明に覚えています。ファッションは私にとってとても強力で感情的に映ったのです。今でも同じ感覚を持っています。

――それに纏わる幼い頃の挿話は?

ファッションデザイナーになることが幼い頃からの夢だったからか、両親はその夢に対して非常に前向きに後押ししてくれていました。そのために、私に出来るだけ広い文化的なビジョンを促してくれたと思います。美術館に行き、本を読んだり、歴史や文化について長い時間話してくれたこともありましたね。母は裁縫師のアトリエを訪れていたのですが、時々私を家に連れて帰らずにそこに残していたのです。だから私の服をどのように彼女は手直ししているのかを覗くことができました。友人が自宅に遊びに来ると、即興のファッションショーを企画して、フォトブースを設けてそれを録画したこともあります。その一つに、下着を何枚も重ね着して、幼い私たちにとっては大きすぎる帽子を被るというテーマを設けたことがあります。すごく面白かったのは今でもハッキリと覚えていますよ。

Julie Kegels The Royal Academy of Fine Arts Antwerp 3rd year collection

夢を叶えるためにアントワープに入学。そこでの対峙

――その後、夢を叶えるためにアントワープ王立芸術アカデミー(以下、アカデミー)に進学。その時のことを振り返ると?

私は高校時代、心から理系科目が好きではありませんでした(笑)。芸術学校に行くことを夢見ていたのですが、両親はまずはこの道を終えて学位を取得することを望んでいました。私は自らの情熱だけにすべてを委ねることはできなかったので、放課後に絵画教室に通い、美術館や博覧会に出向いて自らの教養を磨き続けました。高校卒業後、翌年のアカデミー入学を見据えて、入念な入試準備をしようと思っていたのですが、驚いたことに、一発合格したのです。ですから、入学当初は相当苦労しました。まだ18歳だったので、まだまだ未熟で先生たちも厳しく、限界まで追い込んでくれたお陰か、成長スピードは早かったと思います。短期間で自分の創作が変わっていくことに私自身も驚きました。なので、2年次以降は楽しく創作に向かっていたと思います。

――3年次を終えると学士を取得できるが、その時はどのような作品を作っていたのか?

3年次はウォルター・ヴァン・ベイレンドンクが教師として迎えてくれました。カボクロ・デ・ラ・ランサというブラジルの民族衣装を作りました。巨大な帽子とスパンコールのマントが象徴的で、そのすべてが不釣り合いな出立ちでした。手作りで加工した生地やスパンコールのコラージュを随所に施していて、とても瞑想的な世界観を描写できたと思います。その時のコレクションタイトルは「An inside Joke」。透明と不透明の間に張られた美しいプラスチックの彫刻を制作した米国のアーティスト、レイゲン・モスの作品から着想を得ました。どの彫刻も、私たちの時代感覚を反映した日常生活における決まり文句のような特徴を見事に反映していました。その過程で、私は真空熱成形と呼ばれる技術を体験したのです。これは熱でプラスチックを溶かして層を作ります。その下に形状を置いて、その上にプラスチックを掃除機で掛けてバッグを作りました。ただ、それはバッグのようでバッグではない、プラスチック製の造形であり、目の錯覚を生むことができました。それは幼少期の記憶からのインスピレーションでもあります。私の父は生涯を通して、機能的なバッグを作り続けていました。頑固な子だった私は、そのコレクションでは真逆なバッグを作りたかったのです。利便性を考えないシルエットで形だけを象ったバッグです。そのため、私のコンセプトは「内輪のジョーク」になったのです。

Julie Kegels The Royal Academy of Fine Arts Antwerp 3rd year collection

――卒業後の進路は?

卒業後はブラックホールに少し落ちてしまっていて、特異な時期でした。私は相当ランダムなフリーランスの仕事をしていたと思います。実際には自分がこれまで経験してきた安全圏から脱却し、快適とするゾーンから大きく外れている人たちのためのビキニコレクションを作ったり、その他の仕事も経験しました。それでもファッション業界で働きたいことは変わらなかったので、「メリル ロッゲ」でインターンシップをしました。彼女のショールームを2つ掛け持ちしていましたが、メリルがどのようにすべての部門を管理しているのか、を体感できたことは大きかったと思います。その後パリに拠点を移して、「アライア」を手掛けるピーター・ミュリエの下、デザインチームのアシスタントを務めました。「アライア」では多くのことを学びました。当時は非常に小さなチームだったので、教育に熱心だったと思います。ピーターの近くで仕事ができるのは素晴らしい機会でした。彼はとても情熱的で、チームを家族のように思い、共に過ごしました。とても美しい時間でしたね。

Julie Kegels The Royal Academy of Fine Arts Antwerp Master collection

奔放さと勤勉さが混在する女性の個を炙り出す

――「ジュリ ケーゲル」の背景にある創作哲学は?

前提として私はただ、洋服がとても好きなだけなのです。私にとってのそれは、美しさ、醜さ、真面目さ、馬鹿らしさの間のバランスを見つけることがすべてです。デザインしながら楽しんで、たくさんの感情に包まれたい。また、人が安全圏から脱却する瞬間を味わうことも好きです。ある対象について少し奇妙に感じた時、それは私にとっては良い兆候であり、面白くなる予感がします。しばらく経つと、憧憬の念さえ感じるのです。不思議ですよね。それは即ち、特定の服を着るだけでキャラクターが生まれるという事実でもあると思います。ある日はスポーツ講師になり、またある日は世界で最もエレガントな女性になることもできる。これらすべてのキャラクターを組み合わせてハイブリッドを作成し始めると、更に高揚します。JK(Julie Kegelsの略)ウーマンは表ではビジネス、裏ではパーティーをしているのです。

――自身にとってエレガンスと遊び心は相反するのか、それとも一体なのか?

エレガンスと遊び心は相互に補完し合っていると思います。女性はすべてが可能であると感じなければなりません。例えば、朝起きてバスケットボールのユニフォームを着て、ハイヒールとミニスカートを履いてカフェに行くことは私にとってそれらを体現しています。どちらかが欠けることはありません。

Julie Kegels FW2024-25 Photo: Tom Delaisse

――トムボーイのように、夜遊びをしながら自らの自由を探しているイメージも彷彿とさせるが?

それは素敵な解釈ですね。JKウーマンなら何でもできる、と思っています。彼女たちがドレスアップしてディナーやパーティーに参加したいのか、バーでお転婆になってビールを注文したいのか、どちらで何を得るなんてわかりませんから(笑)。

――デビューコレクションはある種の自己紹介を提示してくれると思っているが、それをどのように具現化しようと思索しているのか?

2024-25年秋冬コレクションは、憧れている女性の個性を収束させています。彼女たちはとても楽しそうに生きていますが、その一方でとても真剣。カッティングにおいては、前身頃から後身頃にかけてサプライズを仕掛けている仕様はとても気に入っています。前がロング丈、後がショートパンツのガーメント、背中がストレートにカットが入っているヴィンテージのドレーピングドレス、片面がスポーツバッグ、もう片面がビジネスバッグになっているバッグなどが好例です。学生時代から継続している真空熱成形技術にもアップデートして取り入れています。生地に関しては、欧州のフリーマーケットなどで集めた古いレースをたくさん使っていて、それをビニールに入れて掃除機をかけて異素材を作り、レインハットとバッグ用のレインカバーを作りました。

Julie Kegels FW2024-25 backstage Photo: Tom Delaisse

コレクションに込められた時勢に纏わる創意

――コレクションテーマでもある「50/50」に込められた創意は?

ビジネス志向50%、パーティー志向50%の女性の物語を意味しています。外見の完璧さを追求しながらも、遊び心のある内面といいますか。理想を壊すことを恐れない洗練された女性の二面性を描いています。

――現在のファッションの世界は、セレブやSNSを中心としたメディア、そこで多大な影響力を持つインフルエンサーが主体となっており、創作そのものにおける議論の場は縮小傾向にある。そのような状況下でブランドを立ち上げる意義をどのように捉えているのか?

私はオーセンティックを大切にしています。それは決してシンプリシティーやクワイエットだけを意味しているわけではありません。私は、ありのままでいようとする女性を尊敬します。最近、私たちの多くは、自分がどうあるべきか、何をすべきか、という理想像に当てはめようとしているように感じるのです。私は場を生み出し、このシーンにおいて実験や再生を促すことで、先ほどお話した物語に挑戦したいと思っています。それは自分の名を冠したブランドであっても継続させ、ブランドにポジティブな影響を与えたり、その逆を行ったりする人々とも共に仕事をします。不都合さえも受け入れるのです。誇大広告を生み出してブランドを成長させるために、人気のあるインフルエンサーや著名人にブランドの服を着てもらうように努めることに意味はありません。ブランドと真に結びつくコミュニティーを作るのです。最終的に彼らはより継続性があり、共に成長するのだから。

Julie Kegels FW2024-25 Photo: Tom Delaisse

>QUOTATION FASHION ISSUE vol.40

QUOTATION FASHION ISSUE vol.40

The Review:
FW 2024-25 WOMENS / MENS
PARIS MILAN LONDON NY TOKYO
COLLECTION

服に封じられた謎、即刻解いてみせます
但し、最後の一行まで読んでくれるなら

The interview
真理、逆説、仕掛け、設計…
すべてが超一級の現代のミステリオーソたち
Y/PROJECT Glenn Martins
NAMACHEKO Dilan Lurr
mister it. 砂川卓也
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