FEATURE|代表・杉原寛、ディレクター・杉原駿が築くアートスペース「void+」とは

南青山にあるアートスペース「void+」は、今年の12月に20周年を迎える。アートセレクトショップ「VOID+STOCK」では現在、初の特別展「[VOID+STOCK]exhibition: part1」が開催中。代表を務めるのは、株式会社Azone+Associatesの代表取締役である杉原寛。そして2023年秋には杉原駿が加わり、新たな展開を見せ始めている。今回は、これまでの「void+」「VOID+STOCK」の運営を通して感じてきた想いや、これから二人で実現していきたいことについて話を伺った。

左: 杉原駿 右: 杉原寛

開催中の展示[VOID+STOCK]exhibition: part1について

ーー特別展「[VOID+STOCK]exhibition: part1」について、開催のきっかけは何だったのでしょうか?

杉原寛:コロナの感染が広がる前年の暮れ(2020年)に、「VOID+STOCK」をスタートさせました。作家を紹介するとともに、作家がアトリエにストックしている、普段見られない作品を入れ替えながら販売するという企画です。最初は盛大にオープニングをやって、作家たちもたくさん来てくれたんですけれども、すぐコロナ禍になってしまって。ほとんどイベントができなくなったんですね。本当は半年から1年かけて、中の作品を入れ替えていこうという計画だったんです。しかしそれはできずに、部分的な入れ替えだけ行っていました。その後やっとコロナが落ち着いて。息子も入ってきたことだし、「VOID+STOCK」のテコ入れしようということで、第一弾として今回の企画をスタートしたんです。スペースに限界があるので、1回に5人の作品を展示して、それを年3回やっていこうと。第2弾は今年のゴールデンウィークの前くらい、第3弾は夏に開催する予定です。

今回は平面の作家がメインの展覧会になっています。「VOID+STOCK」としての特別展なので、基本的には作家が所有している自身の作品を展示して、皆さんに見ていただこうという企画。ただ、中には今回のために制作された新作もあります。

杉原寛

ーー今回は平面作品ということですが、次回は立体作品も?

杉原寛:立体作品と、写真も展示する予定です。立体作品が多くなると思います。

ーー今回の特別展では、どのようなアーティストにお声がけをされたんですか?

杉原寛:まずは、これまで協力くださってきた作家を中心にと思いました。O JUNさんは、「void+」を設立した時の最初の展示にもご参加くださった作家です。内海聖史さんや東恩納裕一さん、五月女哲平さんは「VOID+STOCK」の立ち上げからお付き合いがあります。庄司朝美さんは、コロナ禍に展覧会をやって以来の関係です。今後は、新しい作家の紹介もしていきたいと思っています。

「void+」「VOID+STOCK」とは。その始まり

「void+」は今年の12月で20周年を迎えます。最初の1、2年目までは現在「gallery」となっているスペースしかなかったんですが、3年目から「salon」スペースも加わって、両方の空間を使って展覧会をやるようになったんです。その2つのスペースの内装はインテリアデザイナーの大塚則幸さんにお願いして、ニュートラルですが、計算されデザインされた空間になっています。

反対に、もう一方の「VOID+STOCK」は全くデザインされていない空間です。もともとは事務所で、解体屋さんに壁と天井を剥がしてもらっただけです。壁に残っている白いドットはボードを剥がした跡なんです。

「VOID+STOCK」入り口

「void+stock」

ーーでは、あえてデザインされた空間と、デザインされていない空間に分けている?

杉原寛:そうですね。この計算された空間と、何も計算されてない剥き出しの空間の対比が面白いかなっていう。アートって白い空間の中で見ることが多いじゃないですか。でも、購入した方は家に置くわけで。実際の家の中って、作品以外の物がたくさんあるじゃないですか。それを極端に、全くデザインされていない空間で見せることによって、ホワイトキューブで見るよりも身近なものにしていこうと。デザインされてない空間の中にアートがあることによって、また違ったアートの魅力を発見してもらえればいいなと考えています。

ーー「void+」という名前の由来は?

杉原寛: 50年前はもともと管理人室だったんですが、我々が入った20年前にはもう使われていなかったんです。物置のようになっていて。それを大家さんに借りられないか相談したら、いいですよってことになって。借りた後に、(インテリアデザイナーの)大塚則幸さんとどういう内装にしたらいいかと話をして。その時は、ギャラリーにする予定ではなかったんですよ。打ち合わせスペースとして、ラグジュアリーで小さな空間を作ったらかっこいいかな、みたいな話をしていたんです。なので、借りてから色々考えたんですが、その前にアートイベントにちょっと関わっていたこともあり、チャンスがあればギャラリーもやりたいなと思っていて。それじゃあギャラリーにしようかって話になったんです。

管理人室として機能していた空間が、何も使われてない、全く意味のない空間になっていたわけじゃないですか。それで「void(空白)」という言葉を選びました。そこに「+(プラス)」を足したのは、何もない空間に、アートを入れていくことによって意味を持たせたいという想いからです。

「void+gallery」

「void+salon」

ーー「VOID+STOCK」の方はそのままで、「void+」の方は杉原駿氏が引き継いでいく?

杉原寛:いえ、このアートスペース全体を(杉原駿氏と)一緒にやっていきます。

杉原駿:今まで父が作ってきたものを繋いでいきたいという想いもあるし、そこまで流行ばかりを追う必要はないと思うんですが、ギャラリーを運営する上でやはり時代というのは常に関わってきますよね。ベテラン作家と若手作家の作品がここで混ざり合って、未来に向けてどのように相乗効果を生み出していけるか、これまでに築き上げられた歴史がどのように新しいものに転換されていくのか。そういったところを徐々に一緒にやっていきたいと思います。

杉原寛:アート事業の拡大という部分と、それからデザインとか空間の1つの要素としてのアートという私が今までやってきた部分、どちらも充実させていきたいと思います。

杉原駿が考えるアートとは

杉原駿:8年弱くらいギャラリーで仕事をして、その後美術館での勤務を2年半くらい経験し、アートと美術、両面から作品を見てきてきました。自分がどのポジションに立てば、お客さんに一番近い距離で作品を提案できるかと考えた時に、やっぱり今までギャラリー勤務が長かった分、作品を販売してお客様に届けるという距離が自分の中でしっくりきたというか。これまで父が行ってきたように、インテリアの一部として作品を提案することはお客様と作品を近づけるための一つの方法だし、作品を販売するというのも、また一つの方法だと思っていて。たくさんのやり方がある中で私は、作品を販売して、お客様にどんなことを伝えられるかというところを考えています。

杉原寛:本当にその部分が今までなかったんだよね。これまではデザインビジネスがメインだったので、アートの方は(売り上げとしては)1割、2割とかね、そんな感じだったんですよ。売るのが目的というよりは、クリエイティブな部分を発信していく。それがビジネスに結びついてくれればいいっていう考え方でやってきたので。見て面白いものとか、他ではできないことを作家たちと一緒に作ってきたという感じなんですけど。それはそれでいいんですが、今息子が言ったような販売に関する部分はなかったので、そこも強化していこうという考えです。

杉原駿:提案をして、そのフィードバックがない状態じゃないですか。お客様がご自宅に帰ってどうだったかという声が聞けないというのは、結局それにどういう価値があったのか分からない状態なので。やっぱりその部分は確認したいよねっていう。自分たちが提案したことが、本当に皆さんの生活にとってどういうものだったのかというのは聞きたいところではあります。それを聞くために、お客さんのところに作品を届ける必要があると思っています。

杉原駿

ーーお客様のターゲットなどはありますか?

杉原駿:自分が素敵だなと思う作品しか提案できないので、ターゲットというよりは、我々がいいと思う作品を皆様に伝えていけたらいいかなと思っています。

ーー先ほど、「アート」と「美術」という言葉があったんですが、その二つの境界線っていうのはどういったところなんでしょうか?

杉原駿:個人的には、アート作品は一部のアーティストの表現であって、鑑賞者はその表現に入り込める余地があると思っています。作品に引き込まれて、その作家の思いに共振する部分があってもいい。美術品は、ある程度の裏付けであったりとか、背景だったりというものがしっかりと研究されているもの。なので、自分の中でアート作品と美術品の違いは、作品に入り込める余地がある表現としての活動か、鑑賞者に対して教育的な観点から伝える価値のあるものであるか、という認識です。個人的にはそういった感覚で作品を扱っています。

ーー今アート作品として扱われているものも、後世に残った先に美術になるということですね。

杉原駿:そうだと思います。いってみればピカソだってミロだって、当時は現代アートだったわけで。時代背景とか、その作家がどう思っていたかっていうことを知って知識を得ることが、美術の場合には大切になってくると思いますね。その上で美術として残されてきたものには、裏付けがあると思っています。

これからの「void+」について

ーー今後さらに20年、30年と「void+」は続いていくと思うのですが、これからのビジョンはありますか?

杉原寛:まず、今二人で話したようなことを、しっかり実現していきたいと考えています。今までやってきたことと、新しくやろうとしていることを上手く一つにまとめて、Azone+Associatesという会社を形作っていけたらと。

杉原駿:時はものすごく早く流れていくし、どう変わっていくかというのは分からないところですが、いつでも人と人との関わりという部分は変わらないと思っています。それこそ技術の革新とか色んな変化には常に敏感でいたいですね。取り残されないようにというか。そういう視点は持ちつつ、やっぱりお客様との関わりを大切にしていくというのは変わらないかな。

杉原寛:一番核になる部分なんだけど、Azone+Associatesって会社の名前は、“一つとして”という意味の“as one”が由来なんですね。asとoneをくっつけて、sをzに変えて、“Azone”っていう。“一つとして、仲間として”という意味で。そのコンセプトは、「void+」にも通じています。人と人との繋がりの中から、色々とビジネスが生まれたり、楽しい時間を過ごしたりっていう風にしていきたい。そんな思いがあって名前をつけたんです。

やっぱり人が集まる空間を作りたいんですよ。今はなんでもインターネット上で済んでしまいますが、人と人がフィジカルに集まれるような空間を作りたいっていうのは、今も未来も変わらないと思う。今後バーチャル空間というのも増えていく中で、リアルな空間の価値もまた違った意味を持ってくる。その必要性っていうのは、みんな感じ始めているのではないかと思っています。

ーー「void(空白)」に「+」されるのが、アート作品でもあり、人でもありということですね。

杉原寛:デザインもそうですけど、人と人との結び付き、コミュニケーションっていうものを生み出していきたいなっていうことを、変わらずに思っています。

杉原駿:ま、あんまり30年前のコンセプトのままにされても困るので(笑)。そこは臨機応変に。

杉原寛:まあ会社としては、そういうことでやっていきたいなと。それがどういう風になるのか、形は変わってくるかもしれないね。

[VOID+STOCK]exhibition: part1 インフォメーション:

メインビジュアル

ありそうでなかった “アートセレクトショップ”「VOID+STOCK」では、2月12日までの期間、初の特別展が開催中。

テーマは、アーティストのアトリエに眠る作品の再発掘。5人のアーティスト(内海聖史、東恩納裕一、五月女哲平、庄司朝美、O JUN)が一堂に会し、人の目に触れることの少なかった“ストック品”をメインに未発表作品や新作も加え、アートの魅力を最大限伝えるために空間全体をキュレーションする。

さらに、アーティストとの交流を促すためのイベントも開催し、より身近な存在としてのアートの可能性を探る。長年にわたりアートとデザインを結びつけてきた「void+」ならではの、アートとインテリアのコーディネーションに注目だ。

内海聖史

東恩納裕一

五月女哲平

庄司朝美

O JUN

会場となる「void+」のインテリアやグラフィックを担当したデザイナーなどをゲストに招いた特別対談を開催する。
①1月26日(金)19:00-20:00 出演:東恩納裕一×大塚ノリユキ(インテリアデザイナー)
②2月2日(金)19:00-20:00 出演:内海聖史×森治樹(デザインディレクター)
③2月9日(金)19:00-20:00 出演:五月女哲平×庄司朝美×O JUN(画家)※入場無料、事前予約不要

[VOID+STOCK]exhibition:part1
会期:2024年1月19日(金)〜2月12日(月・祝)
会場:void+
住所:東京都港区南青山3-16-14 1F
時間:12:00-19:00(最終日は17:00まで)
主催:Azone+Associates / void+
定休日:日・月(但し2月11日、12日は開館)
問合せ:info@voidplus.jp
公式サイト:www.voidplus.jp

プロフィール
◼️杉原寛 | Hiroshi Sugihara
(void+ / Azone+Associates inc. 代表)
1980年(株)やまもと寛斎に入社、店舗開発/空間プロデュースを担当する。
1992年(株)アゾーンアンドアソシエイツ設立、空間やグラフィック全般の企画ディレクション、プロデュース業務を行う。
1995年から2000年まで、⻘山界隈で行われたアートイベント「モルフェ」の立ち上げに参加、全体のビジュアルディレクション、事務局を務める。
2005年「void+」開設、現代アートの展覧会を中心に建築や音楽、パフォーミングアーツなどのイベントを主催。2020年「void+stock」開設。

◼️杉原駿 | Shun Sugihara
(void+ / Azone+Associates inc.マネジャー/ディレクター)
2013年東京造形大学大学院デザイン研究領域修了。
2013年株式会社東急文化村に入社。販売企画室にてギャラリーを担当した後、ミュージアム運営室の制作を担当する。
2022年トーキョーアーツアンドスペース事業係の学芸員を経て2023年より現職。

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