FEATURE|日常を照らす光と影。森本啓太にインタビュー

現代アーティスト・森本啓太の初の作品集刊行を記念した個展「KEITA MORIMOTO Illuminated Solitude」が銀座 蔦屋書店にて開催中。会場にて作家本人にインタビュー

森本は風景画や人物画を、レンブラントやエドワード・ホッパーを連想させるドラマチックな光の表現を用いて、古典的な技術を現代に持ち込み、ありふれた街並みを劇的な世界へと変貌させる。自動販売機やファストフード店、駐車場といった日常的な主題に焦点を当てることで、森本は現代の生活における構造的な脆弱性や道徳的規範に疑問を投げかけている。 

銀座 蔦屋書店 店内イベントスペースGINZA ATRIUMでは、森本の初の作品集刊行を記念した個展「KEITA MORIMOTO Illuminated Solitude」11月9日(土)から11月27日(水)まで開催中。本展では、2021年に日本に活動拠点を移した後に制作した作品を中心に、作品集の表紙となる2枚組の大作「Between Our Worlds」(2024)を含む絵画作品13点のほか、初の木版画作品2点が展示される。
長い間カナダで過ごした後に帰国した森本が、日常の風景をモチーフに創り出す作品にはどのような想いが込められているのだろうか。会場で話を聞いた。

――2006年からカナダに行ったきっかけとは?

中学・高校時代の同調圧力の強い文化が苦手で、そこから離れたいと思ったことが大きなきっかけでした。もともと英語圏の国に行ってみたいなと思っていて、アメリカの映画やMVを観ながら、その文化に魅力を感じていました。

――その中でもカナダを選んだ理由は?

安全性ですね。自分はアメリカに行きたかったのですが、銃社会なので親として子供には行かせたくないということで、 カナダかオーストラリアが候補にあがりました。結局はカナダにいい留学エージェントがいらっしゃったのでそこに決めたという流れです。最初は心配もされましたが、自分は離れると決めたらすぐ行動するタイプなので、家族は理解してくれていました。

――実際にアート活動を始めたのはいつ頃から?

カナダにいた頃、あまり英語を必要としない美術と体育の授業をよく選択していて、自然と美術に触れる機会が多くなっていったのが始まりです。それ以前も漫画やアニメのような絵を描くことは好きだったのですが、それらを描く上でストーリーを作るということができなくて、絵を使って何かしようみたいなことは考えていませんでした。

――長らくカナダで過ごした後、2021年に帰国した理由とは?

コロナの流行は大きく影響しました。加えて、ここ15年くらい北米の物価が上がっていたり、政治的にも分裂し始めていて、なんだか生きづらいなと感じていました。どこかの派閥に所属してなきゃいけないというプレッシャーも強くて、そこから離れたいなと思ったんです。大人になってから日本に住んだことがなかったので、一旦戻ってみようかなって。

――日常を起点に描くスタイルはどのように生まれたのですか?

今回刊行した画集にも昔の作品を載せているのですが、最初の頃はロマンス主義などを集中的に勉強していて、古典絵画の光の表現などを真似ながら描いていました。その中で、もし昔の古典絵画の作家が現代に生きていたらどんな風景を描くのかと想像するようになって、自分の周りにある町や人を中心に描きはじめました。

2014年に描かれた作品「Self-Portrait with a cat」
書籍『KEITA MORIMOTO Illuminated Solitude』より

――初期の作品と今の作品を見比べると、表現方法が変化しているように見えます。

最初の頃の制作活動は、技術的な学びであったり、実験的な要素が大きかったと思います。どちらかというとパロディみたいな、今の人を昔の絵画に当てはめたらどうなるかというコメディー要素がありましたね。最近は、新しい表現方法や形などを追求しています。例えば印象派だったら、点描的な筆触分割の技法だったり。デジタルのピクセル感も取り入れつつ、筆の質感も残しながら、ユニークな作品を作るためにチャレンジしています。

《Fragmented Paths》2024

――光と影の描き方が目を引きますが、創作の上で特に意識していることは?

街灯や自動販売機の方向を意識しています。レンブラントの「夜警」では30人くらいが描かれていて、顔に当たってる光は全然違う方向から飛んできたりしているんです。あとはハリウッド映画だったら、真夜中なのに人の顔だけ明るく照らされていたりすることがありますよね。そういった技法に注目して、作品に生かしています。自動販売機の光って本当はそんなに強くないんですよ。実際にその前で写真を撮っても、人の顔ってこんなに明るく映らないんです。作中の人は別撮りしていて、それぞれの顔には映画を撮るくらい明るい照明を当てています。

――自販機に着目した理由とは?

16歳の頃、大阪から小型バイクに乗って浜松まで行ったんです。帰り道は山道を越えていかなきゃいけなかったのですが、下道を走っていたらいつの間にか廃道に入ってしまっていて。最終的に、真っ暗で赤いランプだけが点滅してるようなトンネルに到着したのですが、その入り口は木で塞がれていました。ガードレールもない道をまた10kmくらい戻らないといけなくなり、街灯もない道をひたすら進んで、やっと見つけた光が自動販売機だったんです。自動販売機って人がいなければ置かれないものなので、街に戻ってきたという安心感を感じましたね。海外ではそのまま持っていかれたり壊されたりしてしまうので、外には自動販売機が置かれていないし、光ってもいないんです。なので外にある自動販売機は日本の平和の象徴でもあります。日本に帰って来た時にも、一番最初に目に飛び込んできました。

《Between Our Worlds》(2024)※画像は作品の一部

――他にも駐車場やファストフード店などを描いていらっしゃいますが、モチーフに共通点はありますか?

日常的で素朴なものに焦点を当てることが多いかもしれません。表参道のように整いすぎた街は描きにくいんです。すでに完成してしているし、色彩がコントロールされているので。京都の街並みとかも、描くのには難易度が高いです。あとは古そうに見えるけど実は新しいレトロ風な建物とかは嫌で、ちゃんと時間経過が感じられる場所がいいんです。その方が描き甲斐があるというか。

――今回は新たに木版画が2点展示されていますが、制作に至った経緯とは?

個人的な興味からお願いしました(笑)木版画になった自分の作品を見てみたかったんですよね。もちろん木版画が技術的にすごく難しいということも知っていました。時間をかけて掘っていくのに、刷った後は木が曲がってしまったりするので廃棄になって、シルクスクリーンのように何回も繰り返して使えないし、すごく手間がかかるので日本で木版画をやってくれる人はとても少ないです。でも僕はもともと効率性を追求しない作品づくりをしているので、それを逆に追求したいなと思って。
やっぱり、誰かが真似できてしまうことは全部自動化されていくのかなと。AIが出てきて周りの作家も危機感を感じていたりするのですが、そうなるとどれだけアナログで泥臭いものを追求するかということが大切になってくるのかなと思います。

木版画作品《So close, yet so far》
※イメージ画像。実際の作品と詳細は異なる部分あり
木版画作品《Fragmented Paths》
※イメージ画像。実際の作品と詳細は異なる部分あり

――制作する上で大切にしていること、意識していることは?

東京にいると美味しい食べ物を食べられることや、町が綺麗に整えられてるっていうことって当たり前で普通だと感じてしまいますが、本当はそれってすごく幸運なことですよね。今自分が安全な場所で生きてることさえも恵まれているんだということを、自分の中で常に感じていたくて作品を描いているという意識があります。ポジティブな感情やネガティブな感情は誰にでもありますが、自分の役割としては“アンチ・ルサンチマン”(ルサンチマン=恨みの念。アンチ・ルサンチマンとはそれに対抗する考え)なのかなって。今の世の中ではルサンチマンが目立って、SNSでもバズるんです。逆に、日頃のありがたみとか、幸福感はそこまで感染力もないし、飛距離もないんですよね。それをどれだけ感じられるかということは、生きている中で大きな課題だと思っています。どれだけルサンチマンに引きづられないかということですね。

◼︎プロフィール

森本啓太

1990年大阪生まれ。2006年にカナダへ移住し、2012年オンタリオ州立芸術大学(現・OCAD大学)を卒業。カナダで活動したのち、2021年に帰国。現在は東京を拠点としている。バロック絵画や20世紀初頭のアメリカン・リアリズム、そして古典的な風俗画の技法やテーマに強い関心をもち学んできた森本は、これらの伝統を参照し、ありきたりな現代の都市生活のワンシーンを特別な物語へと変貌させる。象徴的に「光」を描くことによって、その神聖で普遍的な性質を消費文化の厳しい現実と融合させ、歴史のもつ深みと現代的な複雑さが共鳴する作品を生み出している。森本の作品は、トロント・カナダ現代美術館、K11 MUSEA、宝龍美術館、Art Gallery of Peterborough、The Power Plant Contemporary Art Gallery、フォートウェイン美術館などで展示されてきた。他にコレクションとして、滋賀県立美術館、アーツ前橋、ハイ美術館(アメリカ)、Fondazione Sandretto Re Rebaudengo(イタリア)、マイアミ現代美術館(アメリカ)がある。

◼︎展覧会詳細

「KEITA MORIMOTO Illuminated Solitude」

会期:2024年11月9 日(土)~11月27日(水)
会場:銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM(イベントスペース)
住所:東京都中央区銀座6丁目10-1 SIX6階
時間:11:00~20:00 ※最終日のみ18時閉場
主催:銀座 蔦屋書店
協力:KOTARO NUKAGA
入場:無料
特集ページ|https://store.tsite.jp/ginza/event/art/42068-1444590808.html

◼︎作品集

『KEITA MORIMOTO Illuminated Solitude』

著:森本啓太
発行:カルチュア・コンビニエンス・クラブ
発売:美術出版社
価格:6,500 円+税
発売日:2024年11月11日
仕様:142ページ、 A4 上製本、日英バイリンガル
ISBN:978-4-568-10583-4 C0071
購入:https://amzn.to/3XVIAaT

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