東京都写真美術館|「即興 ホンマタカシ」展。その眼に映る距離や見え方を問い質す創作姿勢

東京都写真美術館|ホンマタカシの10年ぶりの美術館個展「即興 ホンマタカシ」が開幕。「カメラ」の原理に迫り、偶発性を呼び起こす

展示風景より

東京、恵比寿の東京都写真美術館にて、写真家ホンマタカシによる国内の美術館では約10年ぶりとなる個展「即興 ホンマタカシ」が開幕。会期は10月6日から2024年1月21日まで。

「即興」の意に関して、ホンマは「一般的なカメラは使わず、部屋をピンホールにして撮影する、つまり部屋がカメラであるということを意識した。ただ、露出のコントロールなど思い通りにいかないことも屡々。どのように写るのか、が読みづらい。キャリアを重ねると想像の範疇になるため、アクシデントを起こしたかった」と語る。英語版のタイトルである「Revolution 9」は「ビートルズの楽曲から引用した」とも。

展示風景より

ホンマは1962年東京生まれ。日本大学藝術学部写真学科在学中に、広告制作会社ライトパブリシティに入社し、6年在籍。1991年から1992年にかけてロンドンに滞在し、ファッション、カルチャー誌『i-D』で活動する。帰国後は、雑誌、広告など幅広いジャンルで活動。1999年写真集『東京郊外』で、第24回木村伊兵衛写真賞を受賞。2011年金沢21世紀美術館、東京オペラシティアートギャラリーにて国内の美術館での初個展「ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー」を開催。2012年丸亀市猪熊弦一郎現代美術館にて同展覧会を開催。

今回の個展は、ホンマが注力している「カメラ・オブスクラ」の原理を拡張させた作品を中心に構成。「カメラ・オブスクラ」は、暗室やボックスに小さな穴を空けることで、穴に光が通り、明るい外の投影像が暗室の内部に上下逆さまとなって映し出される仕組みを利用する装置を指す。「THE NARCISSISTIC CITY」シリーズなどはその代表作で、ホテルを借りて閉め切った一室を写真機の中に見立て、小さな穴から屋外の光を取り込むことで、室内の壁に外部の風景を映し出し、定着させている。

本展を開催するに辺り、レトロスペクティブになりがちな個展に対して、創作人生のダイジェストではなく、進行形の一連の流れを空間に設計したようだ。

展示風景より

エントランスを潜ると「THE NARCISSISTIC CITY」シリーズが並ぶ。東京、ニューヨーク、ミラノの偉大な建築物を空間で撮るという手法により、実験的でありながら、あたかも確実に見えるその存在は自らの偶発性に誘うことで、不確実で曖昧に変化させる。

本展に足を踏み入れた直後から視界に入る丸い穴。そこを覗き込むと気づくのだが、この暗室を中心に展示空間が構成されている。その部屋には「Revolution」や「9」といった文字や数字が映る作品やピアノが配置されている。会期中、ホンマは不定期にここでピアノを弾くそう。開幕前日の内覧会でもホンマの演奏が披露されていた。

展示風景より

先に進むと、福岡県太宰府にある太宰府天満宮に所蔵されている鏡のインスタレーション「Seeing Itself」が展示され、周囲には東京とニューヨークの都市を鏡越しに見ることができる。見る位置、角度、高さによって見え方が異なるという仕掛け。ホンマはスーザン・ソンタグの「写真とはまず第一に、ものの見方a way of seeingであって、見ることそれ自体seeing itselfではない」という言葉を引用。「写真をどのように見るか、ということに興味がある。例えば、距離。暗室内にある「Revolution」や「9」はその距離でないと見ることができない。その応用を展開したが、改良してこのようなインスタレーションを続けていきたい」と語る。

展示風景より

次に並ぶのは、定着の最中に悪天候や光の量の加減によって映りが悪くなった写真や、現像の過程で指紋が載ってしまった写真、X線検査で一部感光してしまった写真など「失敗した写真」。偶然性やその場のハプニングを採用するかどうかは、作家のアティチュードに委ねられる。意識の拡張が狙いで展示に至ったというようにエラーの中から気づきを得て、自らの世界に変える自流のプロセスを感じさせる。

展示風景より

葛飾北斎の「富嶽三十六景」から着想を得て富士山を撮影した「Thirty-Six Views of Mount Fuji」は、富士山が見えるホテルからカメラ・オブスクラとして多様な富士山の表情を切り取っている。だが、このシリーズの殆どの現場にホンマはいなかったという。「アシスタントに行ってもらって、それをiPhoneで見ながら撮影した。遠隔操作で撮ったものもある。アシスタントも思い通りに撮れない。指示を出して写真を生み出す作法にはそこに可能性がある」と話す。

ホンマは徹底的に写真そのものを問い質し、時にコンセプチュアルに時にハプニングに身を任せる。感触がない時もあるという。自らが実験的に、思索を繰り返しながら生み出した一連の流動は、スクリーンが目となり、そこに見えるものを事実として捉える危うさを感じさせる。距離、見え方さえも工夫を凝らし、その眼に映るものを多角的に捉えようとする姿勢が窺える。

「即興 ホンマタカシ」 会期: 2023年10月6日(金)〜2024年1月21日(日) 会場:東京都写真美術館 2F展示室 住所:東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内 開館時間: 10:00〜18:00(木・金曜日は20:00まで) ※入館はいずれも閉館30分前まで 休館日: 月曜日(月曜日が祝休日の場合は翌平日)、12月29日(金)〜1月1日(月・祝) 観覧料: 一般 700円、大学・専門学校生 560円、中学生・高校生・65歳以上 350円 ※小学生以下、都内在住・在学の中学生、障害者手帳の所持者および介護者(2名まで)は無料 ※1月2日(火)・3日(水)・21日(日、開館記念日)は無料 ※オンラインで日時指定チケットを購入可

【問い合わせ先】東京都写真美術館 TEL: 03-3280-0099

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