FEATURE|GLIM SPANKY INTERVIEW about 7th album「The Goldmine」

FEATURE|GLIM SPANKY INTERVIEW創作に纏わる原風景、衝動、そして流儀

空想と現実、野性と理性、追憶と忘却、疾走と徐行、懐古と超現実。あらゆる対比の均衡を保ち、目紛しい変化を続ける現代の音楽シーンにおいて、固有のスタイルで直走るロックユニットGLIM SPANKY。デビュー以降9年間でコンスタントにアルバムを作り続け、2023年11月15日には7枚目のアルバム「The Goldmine」をリリースする。松尾レミと亀本寛貴は、同じ原風景を眼差しながら、ありのままに自らを解放し、音と向き合ってきた。未曾有の事態が収束を迎えつつある今、「The Goldmine」に込めた想いと彼らの根幹、そして未来への志向を語ってもらった。

初心を忘れず、研ぎ澄まされていく感覚

――来年でメジャーデビュー10年を迎えるが、変わったところ、変わらないところは?

松尾レミ(以下、松尾): 私が高校1年生、亀(ギター、亀本寛貴)が高校2年生の秋頃、私は既にGLIM SPANKY(以下、GLIM)を結成していて、亀はまだメンバーではなかった時で、スタジオでの練習に来てくれました。

亀本寛貴(以下、亀本): 寒かった時期だったよね。カラオケだったテナントが貸しスタジオを運営していて、そこでのGLIMの練習に行きました。かなり練習して臨んだことを覚えています。松尾(レミ)さんは、恰好が今と全然違うよね(笑)。

松尾: そうそう、当時はノイズバンドが好きで。その影響で全身真っ黒のパンツスタイルだった(笑)。亀はどうだろう…。音楽に真摯に向き合う人だな、という印象でした。だからすぐにメンバーとして迎え入れようと思いました。コピー楽曲もたくさんやっていましたが、すぐにオリジナル楽曲も作ったことを覚えています。

亀本: バンドとしての音出しをそこまで経験していたわけではなかったので、とにかく楽しかった記憶があります。僕ら二人とも、気質的には変わってないと思います。でも、音楽に向き合う姿勢は全然違いますね。僕らの音楽人生はアマチュア時代よりも、仕事になってからの方が長い。閃光ライオット(TOKYO FMの番組「SCHOOL OF LOCK!」とSony Musicが主催する10代のミュージシャンによるロックフェス。GLIM SPANKYは2009年にファイナリストに選出された)に出演した時期くらいから、メジャーデビューできるかもしれない、という確信を持っていたというか。若気の至りですよね。

松尾: 確かに若かったと思う。でも、気負いはなかったかな。絶対に売れければ、とか。ライブの動員数を増やさなければ、とかはあまり考えていなかったかもしれない。ライブに来たい人が来れば良い、と。それもまた若気ですかね。

亀本: 売れなくてバイト生活に明け暮れた日々が長かったわけでもないし、デビューした後も爆発的に人気になったわけではなく、そこから2〜3年かけて徐々に日常生活を難なく送れる程度にはなりました。大規模なステージにも立たせてもらえるようになって、スタッフも増えて、メディアの露出も増えていき、そこからは確かに責任を感じるようになりましたね。大人になるたびに義務的になっていく感覚とも葛藤したし、それでもそれは特別なことではなく、僕は今33歳ですが、他の同世代の方たちと同じだと思います。武道館でのワンマンライブやフジロック(フェスティバル)のメーンステージでやったことも、確かに素晴らしい経験だったとは思いますが、特別なライブだという感覚もないというか。でもそれを経て、より高い目標を持っていいのかなと思えるようになりました。

松尾: 初心を忘れたくない気持ちがあって。フレッシュでありたいといいますか。そこを保ちつつ、自分の許容を広げていく作業を続けていく感覚ですね。若い時はやることなすことすべてがフレッシュだし、私たちにとっても新鮮でした。だからこそ、経験を積むことの危うさを感じています。例えば、曲作りに対しても、感覚的にこのフレーズを入れたいけれど、ここでは抑えよう、とか。何も考えず、ありのままを表現したい気持ちがあって、そのためには、どのように広い心で柔軟に音楽に向かっていけるのかな、とか。別に景色がどこだろうと、売れているかどうか、とかも関係ない。自分をどのように磨いていくか、磨かない部分をどのように保つか。それは自分たち自身と向き合うことだと思います。今はそういうフェーズだと思っています。

GLIM SPANKY「Velvet Theater 2023」(2023年8月5日) Photo: HAJIME KAMIIISAKA

現代の音楽シーンにおけるアルバムの意義

――配信メーンのこの時代において、オリジナルアルバムを作ることの意義は?

亀本: それは常に考えています。僕らは配信がネーティブではない。サブスクリプション形式のリリースがない時代にデビューしているので、僕らのファンの方たちにとって、GLIMがアルバムをリリースすることは当然といえば当然のことだと認識しているはずです。ただ、もし僕が今20歳でこれからデビューするのであれば、アルバムは作らないと思います。数ヶ月に1回リリースして、その1回をちゃんと意味のあるSNSで発信してものにする。要するに、アルバムに対する肌感覚が僕たちと今の若い世代では良い意味での乖離がある。そういう人たちが無理にアルバムを作ったとしても、果たしてそれが魅力的なのかどうか。例えば、個人的に好きなのですが、ボーカロイドも一曲入魂といいますか、アルバムの概念があまりない。リリースそのものに、そのミュージシャンの音楽性や素養、ルーツが滲み出る。MVにしたり、音楽番組に出たり、TikTokで流行るような曲ではないけれど、そのミュージシャンの音楽性を表現するのに必要な楽曲があって、その広さ、深さを表現できる人にはアルバムをリリースするべきだと思います。他方、一曲で勝負できる人はその能力がないわけではなく、そもそもそこで勝負していないため、視点が違う。僕らはそういう楽曲もたくさんあるので、アルバムを作るべきだし、出す価値があると自負しています。それを聞くことで、そのミュージシャンは一筋縄では語れないな、と思わせる。

松尾: それが楽しいよね、アルバムという作品作りそのものが好きで、一つにパッケージされた時の世界観はクリエーションとして面白いと思う。何よりアルバムが必要ない時代なんて寂しいじゃないですか。音楽は音だけではなく、フォントやファッション、色味、細部に渡って現すことができる。それはアルバムを出す意義になっています。

GLIM SPANKY「Velvet Theater 2023」(2023年8月5日) Photo: HAJIME KAMIIISAKA

――「The Goldmine」というアルバムタイトルとこのタイトルトラックに関しては?

松尾: 制作の途中に決まったよね?

亀本: うん、各曲のデモが上がり始めてきたタイミングくらいかな?

松尾: このタイトルトラックは、その言葉に触れた瞬間、直感的にしっくり来ました。意味をよく調べてみると金脈とか宝がある金鉱という意味で。時代として、個人として、GLIM SPANKYという金脈に気づいて欲しいという、生意気ですが強いメッセージを感じさせます。曲作りに関しても、そこに新しい要素を足すのではなく、言葉の背景だけで十分にその世界を作ることができる言葉でした。それで、レコーディングの最後に留めの一曲だと思って、期限ギリギリに収録して作った曲がこの一曲目です。

――そういった一つの言葉だけで世界が広がり、曲になることは頻繁にあるのか?

松尾: いつも一枚の絵とか小説の一文とか映画のワンシーンを膨らませるので、好きなアプローチです。モチベーション的にも自分に合っていると思います。

亀本: 松尾さんが考えてくれた案に対してリアクションするのですが、他にも候補はたくさんあって。Goldという言葉がしっくりきていて、そこから膨らませて行き着きました。感覚的にも気分的にも音色的にも合致したと思います。

――「真昼の幽霊」から「Summer Letter」の流れでアルバムの中で前半から後半に変わる基点になっていたが、そこに何か意図はあるのか?

松尾: 実は最初この流れをアルバムの一曲目にしたかったのです。しかし、「The Goldmine」が完成したので曲順を変更しました。

亀本: おそらくこの楽曲が一曲目にきていたら、アルバムのムードがガラッと変わっていたと思います。一曲単体で聞かれる傾向にある時代において、アブストラクトな曲から始まると、その世界に飲めり込みにくい。そこで、どこに入れようと再考した際に、前半の楽曲は内容の濃い曲が多いので、途中で耳の情報を減らす方がいいなと思いました。40~50分のアルバムを集中して聞く機会はそうそうない。そのため、2部構成の感覚で作った方が入りやすいだろうし、曲数も工夫して内容を凝縮しました。

松尾: 個人的にはその二曲の流れは、アルバムの入りの楽曲と考えていたほどなので、かなり気に入っていました。そのため、この曲をアルバムの中の箸休めになることは避けたかったのです。置き所はかなり迷いました。最初の4曲が濃密なので、その後に来ればその二曲もグッと濃くなると思って、あの位置に置きました。

GLIM SPANKY「Velvet Theater 2023」(2023年8月5日) Photo: HAJIME KAMIIISAKA

アルバムにおけるコンセプトとは

――コンセプトを軸にしたアルバム、楽曲を作るタイプと一曲一曲と向き合い、その積み重ねがアルバムになるタイプの2択があるとしたら、どちらが多いのか?

亀本: 基本的には一曲の積み重ねです。これまでもそうだったし、「The Goldmine」も然り。タイアップやリリースのタイミングを横目に、コンセプチュアルなアルバムを作ることはかなり困難なことだと思います。

松尾: そうだね。タイアップ曲に関しては、個人的には前提として題材があるので、制作は進めやすいと感じるタイプです。そこに自分の心も吸い寄せられて良い楽曲になると思っています。今回のアルバムの中にある「ラストシーン」という楽曲は、恋愛バラエティ番組の曲です。私たちでいいのかな、となりましたが(笑)、それも1970年代のフォーク&ニューミュージックを着想として、いつものGLIMとはまた一味違う妙味を引き立てることができました。そういう意味では、タイアップといっても、独自性とリアリティーがあると思って向かっています。

亀本: だからこそ、コンセプチュアルにアルバムを作るのが難しいよね。僕らの場合は極論、アルバム全曲タイアップでも困ることはありません。それは、一曲ですべてを纏め上げることができるから。「The Goldmine」で収束できたように。ただ、アーチストである以上、何も考えず、アルバム制作だけに集中して作ることもやってみたいですね。

松尾: やってみたい。時間をかけてね。

GLIM SPANKY「Velvet Theater 2023」(2023年8月5日) Photo: HAJIME KAMIIISAKA

拭い切れない過去を表現に

――2015年にリリースしたシングル「大人になったら」を始め、抑圧や否定に対する抗う心情やそれと葛藤する心模様を音と言葉で描き、ある意味、距離を取っているように感じるが、それは意識していることなのか?

松尾: 私の場合、家族や友人、学校の先生は応援してくれていました。そのため、音楽的なことは問題なかったのですが、音楽をやっていること、都内の美術大学に行くことに対して、街の人からは散々ないわれようでした。親不孝もの、とか美大なんて行ったところで立派な大人になれるわけがない、とか。「大人になったら」然り、閃光ライオットの時に作った「焦燥」然り、そういった自分なりの反逆精神はあると思います。一生拭えないとも。その距離は、おそらくそこからきていると思います。確かに距離であることが大事で、劣等感ではないのです。何をいわれても折れずに、音楽性や表現に擦り替えできたのは、仲間がいたからだと思います。

亀本: 僕はそういう扱いを受けたことも感覚にもなったことがなかったですね。逆に応援もされていなかったので、勝手に続けていたといいますか(笑)。

松尾: 私は結構周りにいうタイプだったからね(笑)。美大に行くのも私の出身の高校では創立以来初のことだったみたいだし。あとは、結構大人になることに対してずっと疑問で。そんな心の狭い人たちを良い大人というべきなのか、では下北沢の路上でお酒を飲みながら今を大事に生きるバンドマンたちは良い大人ではないのか、とか。私にとっては彼らのような人たちこそ美しい大人に見える。自分が感じているリアリティーや感覚の乖離が、距離となって表現されているのかなと思います。

GLIM SPANKY「Velvet Theater 2023」(2023年8月5日) Photo: HAJIME KAMIIISAKA

コミュニティーを広げ、躍動する未来

――久しぶりにロングスパンでの全国ツアーがあるが、そこで期待すること、試したいことなどは?

松尾: ロングツアーは久しぶりなので、初心の気持ちです。時代も変化しているので、デビューした頃の初期衝動を思い起こすようなライブにしたいと思います。アルバムの楽曲がメーンになりますが、新旧問わず色々な楽曲をやりたいですね。もう一度、音楽仲間を増やすツアーといいますか。全国各地で友達が増えていくツアーになればいいなと思います。

亀本: 僕は明確な目標があるんですよね。

松尾: あ、どうぞ(笑)。なんですか?

亀本: これは松尾さんにも共有したいというか、フィジカル面を鍛えていくバンドにしたいと思っていて。広いステージで二人が駆け回っているの、なんか良いよね、と前に音響のスタッフの方にいわれたのが印象的で。僕もそういうスタイルは個人的にも好きですし、どうかな?

松尾: 駆け回り方にもよるけど(笑)。

亀本: The Rolling Stonesのライブのような(笑)。今までアクションが少ないバンドだと思われることが多かったので、ロックバンドとしてのパフォーマンスが強力、というイメージにしていきたいですね。だから、ツアー中に前日入りとかがあったら、是非一緒に朝ジョギングを…

松尾: それはちょっと…(笑)。毛色違いすぎない?

亀本:それは言い過ぎだけど(笑)、フィジカル的に鍛え上げられるとメンタルも付いてくるからね。

松尾: それはそうだよね。

亀本: そのために、バンドとしてコンディション的にも良い状態を保ちたいですね。

――冒頭にもあった来年のデビュー10周年。これは単なる数字なのか、それとも特別な意味を与えるのか?

松尾: 今までは数字に固執してこなかったですね。

亀本: 結成10周年も15周年も何もしてないよね。

松尾: そうそう。けれど、メジャー10周年も一つの区切りだし、今までやってこなかったからこそチャレンジしてもいいのかな、とも。そうはいうものの、曲作りがメーンにはなると思います。あとは亀とも話しているのですが、他のミュージシャンとのコラボレーションをやりたいね、と話をしていて。

亀本: それはいいよね、やりたい。

松尾: アニバーサリーだからこそ依頼しやすいというのもあるし、是非やりたいですね。

亀本: 個人的には10周年は数字でしかないです。でも、ミュージシャンは雇用制度があるわけではなく、ある種の生存競争の中で生き残ることができているし、そういう意味では僕たち自身というよりも、外の世界の方たちが意識的に僕らを10周年という見方をしてくれるので、それは僕たちにとって、ご褒美だと思っています。チャンスやタイミングを頂けるのであれば、それは逃したくないですね。それに対して良い楽曲を作ることで報いることができたら僕たちも幸せです。

GLIM SPANKY 7th album『The Goldmine』

2023/11/15 RELEASE

<初回限定盤(CD+DVD)> TYCT-69288 / 4,800円(tax out)

<通常盤(CD)> TYCT-60219 / 2,800円(tax out)

>QUOTATION FASHION ISSUE vol.39

QUOTATION FASHION ISSUE vol.39

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