FEATURE|creative session – Bunney / Eug / sacai –

FEATURE|creative session – Bunney / Eug / sacai –

Bunney / Eug / sacai Photo: Courtesy of sacai

タイムレス、エイジレス、シーズンレス。

時代や国境、文化、宗教、概念の境界が曖昧になっている現況と協業が続発する昨今の産業の流れに少なからず因果関係があるのは自明の理。だが、協業を作り手同士の交差と捉えると、そこに分がないというわけではなくなる。それも「サカイ」がある種のプラットフォームとなった際の幾許かの臨場感は、どうも世の流れにある其れとは一線を画しているようにも感じさせる。理想を打つわけではなく、カタチとコンテキストや奇を衒った虚構に縋るのではなく、生身の人間、ありのままの自然に重きを置く。質実を念頭に置いた交差はそれを相応に印象深く映る。

アンドリュー・バニーは、「ドクターマーチン」のクリエーティブディレクションを手掛けた後に、英国産の素材と男女の垣根を超えたタイピング、洗練性と実用性を掛け合わせたデザイン哲学を宿したジュエリーブランド「バニー」を創業。一方でユージン・ワンは、「アップル」のインダストリアルデザイナーという経歴の他、Eug名義でDJプレイヤーやサンフランシスコを拠点としたレーベル、Public Release Recordingsを主宰するなど異色のキャリアを持つ。これまで彼らが交わってきた私的空間から世界を拡げる縁であり、原動であり、舞台となったのが「サカイ」。

アンドリューとユージン、そして「サカイ」の交差によって花瓶、ブローチ、いくつかのウエアが誕生。

この協業を記念したパーティーの数時間前、sacai Aoyamaを訪ねると、ふたりは生み出した花瓶を目にしながら和やかに話し込んでいる。この現象における挿話、通底する創意、そしてこの時代について語り合ってもらった。

Bunney / Eug / sacai Photo: Courtesy of sacai

――今回のおふたりと「サカイ」の交差について、その経緯と三者間における逸話があれば教えてください。

Andrew Bunney(以下、Andrew): 私とユージンは旧知の仲です。そのため、プライベートなプロジェクトとして、一緒に創作したことはありました。今回のプロジェクトは、その延長線上にある感覚です。何度かディスカッションを重ねて、まずは花瓶を作ることになり、その後ブローチを作ることになりました。緻密なプランニングというよりも今までの私たちらしく、自然な対話の流れを大切にしました。話をしているうちに、ウエアを何点か作りたくなり。どこのブランドかな、と思っていたのですが、私もユージンも「サカイ」と長年の付き合いがあったことに気づき、すぐに声をかけました。快く受け入れてくれて、プロジェクトは順調に進み、今こうして皆さんにお披露目できることなって、嬉しく思います。

Eugene Whang(以下、Eugene): そうだね。元々ビジネスで繋がっていたわけではなく、アンドリューはひとりの友人です。なので、これまでの共作もプライベートなものでした。例えば、私が「アップル」を退社する際に、同僚たちにあるギフトを贈ったのですが、それを彼に作ってもらったことがあります。確かにプライベートではありましたが、ものづくりのスタート地点は確実にそこにあります。アンドリューの物に対する視点だったり、ディテールや細部への拘りに対して共感できたので、パブリックな場で一緒に創作しても面白いのではないか、と思ったのです。

Bunney / Eug / sacai Photo: Courtesy of sacai

――「サカイ」のショーをご覧になったことはありますか?もしあるならば、どのような印象を持ったのでしょう?

Andrew: もちろんあります。「unusual」という言葉が相応しいショーでした。「サカイ」は音楽が創作の重要な核のひとつだと思いますが、他にもモデルの選び方、スタイル、設え…ショーに纏わるあらゆるセグメントがモダンであると感じました。それはこの時節柄、とても大切なことです。また、ショーを通して自分たちがインターナショナルな立場であるという矜持も伝わってきました。どこかひとつの国、地域や画一的な文化、概念ではなく、オリジナリティーを下敷きに、世界観を広げていく姿勢が印象的でしたね。

Eugene: 私もあります。「サカイ」のユーティリティー性は非常に印象的です。尚且つブランドが伝えたい意味、目的が明確であるが故に、アイデアやビジョンも明快に可視化されていると思いました。

Bunney / Eug / sacai

Bunney / Eug / sacai

――あらゆるアウトプットが考えられるなかで、なぜ花瓶やブローチだったのでしょうか?

Eugene: 私の自宅には花瓶がたくさんあります。とても身近な存在です。軽量感やカタチだけではなく、一日のなかで目立たない存在のはずなのに、何故か目に入るような不思議な存在感があるのです。花瓶のなかに入っているお花が生きるべきなのに、花瓶自体が目立ち過ぎてしまうことが多々見受けられますよね。だから、花がより際立つ花瓶を作りたかったのです。創作のビジョンは、花瓶そのものではなく、花が目立つ花瓶、というアイデアと結実しています。それをアンドリューと話しながら、彼はジュエリーデザイナーでもあるので、シルバー素材を使って作れないかと模索してもらいました。シルバーは品があって高貴なマテリアルです。光に反射しますし、時間が経つごとに変化していくというユニークな表情も持ち合わせています。それが起点です。

Andrew: お互いのアイデアプロセスを共有していきつつも、私自身の身近にある素材とユージンがこれまで扱ってきた素材はまったく異なります。実際にそれらの長所をどのように活かすかを試行錯誤しました。これまで誰も手をつけてこなかった、もしくはできなかったことに対する挑戦であると同時に、私たちのビジョンの帳尻を合わせ、最新技術も取り込みながらフューチャーリスチックな花瓶に落とし込んでいます。

Bunney / Eug / sacai

――日本には「花を生ける」という言葉があります。「華道」という芸術方式はその好例です。花の力をあなたたちはどのように感じていますか?

Andrew: 私たちが作った花瓶は、ヒューマニティーを感じるものになっていると思います。それは今回のプロジェクトに限らず、人の手の感覚が宿っているものを作ることに拘ってきたからです。先ほどお話したような光の反射やテクスチャー、花を生けるという所作をイメージし、花瓶のなかで花々が表情を変えながら自ら生けていく有様など、あらゆる場面において人の手が加わることで、花とそれを容れる花瓶の美を表現している。今回選んだシルバーというマテリアルは、時が経つにつれて味が出てきて経年変化を楽しむことができます。見た目は変わっていくけれども、その美が削がれることはありません。そう、機械的なものではなく人の手が加わっているからこそ、変化するのです。この花瓶と花の生命観は連鎖していると思います。

Eugene: もし今回、シルバー素材ではなかったら実現しなかったと思います。花瓶の存在感が消えているように見えても、容れている花自体が生きれば良いという思いがありました。この、花瓶の存在感が消えている感覚がとても大事なのです。それは存在感が文字通り喪失しているのではなく、むしろそれが存在しながらも存在していないように見えるほど花が際立っているという意味を指します。花の力を最大限生かした花瓶になったと思います。

――創作と花にはどのような関係性があると思いますか?

Eugene: 先ほどお話したように、私は常に花瓶という存在に関心がありましたし、私的な空間におけても花瓶が目に入る場所にあります。そうして花がたくさんある生活を送っていると、自然界のなかにある花そのものの美しさが最も美しいと感じます。人の手で作られた人工的なものよりもそこにありのままの状態で存在していることが大切です。それは創作にも通ずる感覚だと思います。

Andrew: ユージンの話にひとつ加えると、今回のキービジュアルではチューリップを差しているのですが、そのチューリップの歴史や数百年前からアートやカルチャーと花や植物の特別な関係を意図的に示唆させています。創作と自然は切っても切り離すことができない関係なのです。

Bunney / Eug / sacai

――「サカイ」のクリエーションの特色のひとつとして洗練されたデコラティブとシンプリシティーの共存があります。サカイ流のハブリットです。それは、おふたりのデザインの流儀と通ずると思いますが、それらの共存についてどのように考えていますか?

Andrew: すごく良い眼差しですね。確かに今回のプロジェクトの特色としてトラディショナルなアプローチでありつつ、何世紀も変わらないものづくりの技法を駆使してながらも、プロジェクトの進行はモダンだったと思います。我々のような拠点が異なる三者間だったとしても、作り上げることができた。それ自体がハイブリットな気がします。

Eugene: 私もまさにそう感じています。

――今のこの世の中をどのように見ていますか?

Andrew: スマートフォンが社会で確立されて以降、世代観問わず、幸せな瞬間やそうではないこと多々ありますね。とても複雑ですが、人類も人間も進化しています。実際にスマートフォンが台頭されてからは、多くの情報が素早く手にすることができています。それを取捨選択する能力も自然と植えつけられました。だからこそ、ポジティブな面とネガティブなこと双方にしてあります。ただ、ルネサンスの時代に印刷が情報として現れたときにも、現代と同じような問題が起きていたと思いますが、進歩を続けてきた。そのため、この時代の進化は悪いことではないと思っています。今回のビジュアルコンセプトの核となっているチューリップを起用した理由は、美しく穏やかな表情とチューリップマニア(ネーデルラント連邦共和国(現在のオランダ)において、オスマン帝国からもたらされたばかりであったチューリップ球根の価格が異常に高騰し、突然に下降したまでの期間)の時代のカオスなムードの愛のある交差です。意図させたわけではなく結果的に、ではありますが、いまの時代を現しているともいえるかもしれませんね。

Eugene: チューリップは私のお気に入りの花のひとつです。安らぎや落ち着きを与える、とふと感じさせます。花瓶をチョイスしたのもきっと無意識下にそのような心情によって、花瓶を選んだのではないかと思っています。そのため、花から得られる落ち着きや幸福感に対する畏敬の念も現しています。

――何をしている瞬間が幸せですか?

Eugene: いまを大切に生きることが幸せです。時代を超えて花が人々の生活を豊かにさせます。花が長く人の生活にある所以だと思います。ある種の安心材料になっているのではないでしょうか。花には人を安心させる力があります。

Andrew: 問題が起きてそれを乗り越え、達成感を感じたときや良いアイデアが生まれたとき。そういったひとつひとつの瞬間でしょうか。

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