FEATURE|アートディレクター・安田昂弘インタビュー【前編】

FEATURE|デザインとビジネスの融合。コンビニエンスウェアのアートディレクター・安田昂弘へインタビュー vol.1

「いい素材、いい技術、いいデザイン。」をコンセプトに掲げ、2021年3月から全国展開されているファミリーマート(以下:ファミマ)のプライベートブランド「コンビニエンスウェア」が注目されている。2023年に開催された「ファミフェス」でのファッションショーは業界人のみならず、多くの人々の関心を集めた。

クリエイティブディレクションを担当するのは、ファッションブランド「FACETASM(ファセッタズム)」のデザイナー・落合宏理。そしてアートディレクターを務めるのが安田昂弘だ。透明なジップ袋にシンプルな文字が映えるこのパッケージデザイン、VI等はどのように完成したのか。今回はそのアートディレクションについて話を聞いた。

安田昂弘

――プロジェクトの始まりについて教えてください。

元々コンビニって、本当に必要最低限のものを買う場所だったと思うんです。それが今だと、コンビニで美味しいコーヒーが買えたり、公共料金の払込ができたり、ATMでお金が下ろせたりします。それって、昔は普通じゃなかったことなんですよね。コンビニがインフラとなっていて、その次のフェーズとしてはコンビニに緊急性とは違う、欲しいと思うものが売っていて、それを買いに行くことなのではないかと。そこにコンビニとしての新しい革命があるかもしれないという想いがバックコンセプトとしてあります。

現在ファミマは全国に約16,300店舗あり、1日に来店されるお客さまは1500万人くらい。とんでもなく多くの人数が来るんですよ。例えばおむすびなんて毎日すごい量購入されてるんですね。この分母になると広告やSNSは本来必要なくて、店頭のコミュニケーションだけで動きが生まれているんです。それを活かした衣類のブランドができないかということで生まれたのが、コンビニエンスウェアです。ファミリーマートで衣料品の販売を成長させれば、コンビニ他社にはない差別化にもなるということで、今回のプロジェクトが動き始めました。

僕が落合さんと出会ったのは2018年くらい。ファセッタズムのグラフィックデザインやアートデクションに参加させて頂いて。その繋がりもあって、落合さんから「ファミリーマートとこういった取り組みが始まるんだけど、一緒にやらない?」とお誘いを頂きました。まだコンビニエンスウェアって名前も決まってなかった頃ですね。その後、奇跡的にコンビニエンスウェアという名前の商標が取れたんです。どストレートでニュートラルなネーミングではあるので、浸透には時間がかかってるんですが、とてもいい名前が取れたと思っています。

Photographer : Kento Mori
Photographer Assistant : Go Kato
Retoucher : Keisuke Aoyagi(UN)

商品開発について

――コンビニで展開するものだからこそ意識したことは?

「いい素材、いい技術、いいデザイン。」をブランドコンセプトとしてスタートしました。実際クオリティは申し分ないですし、素材も、技術も、いいものを使っています。世の中が混乱していたり価値観が揺らいでる今、自分が欲しいと思った物をきちんと選ぶことが自分を大事にすることに繋がるのではないかと。ファッションって、お金をかければいくらでも良くできるとは思うんです。でも例えば中学生やおじいちゃんおばあちゃんでも、履きたいと思う靴下とかを自分で選ぶことによって自己肯定感を少しだけ上げることができたりするはずです。「自分を愛そう」という強いメッセージは、そういった価値観をコンビニで作ることができたら新しいのではないかということから完成しました。

コンビニエンスウェアの アートディレクターとしての仕事

――コンビニエンスウェアのアートディレクターとして、具体的にどのようなことに取り組んでいらっしゃるのですか?

プロジェクトには立ち上げから参加しているので、ブランドのネーミングから携わっています。当初は色々な名前が候補にあったんですが、最終的にコンビニエンスウェアがいいんじゃないかと決まりました。アートディレクターとしては、メインビジュアルのディレクション、パッケージデザイン、POP制作など、ビジュアルのディレクションなどをしています。必ずお客さんが店頭で最初に見るのはこのパッケージなので、そのコミュニケーションのスタートとして重要性がすごく高いんです。なので特にパッケージデザインは強く意識しています。この時点で魅力的じゃなかったら、もうお客さんに手にも取って頂けないので。

Photographer: Takao Nagase (UN)
Retoucher: Akira Takeuchi (UN)

あとは小さい商品のPOPなども僕らが一つ一つ作っています。ECでの販売ではなく、お客さんが棚の前に立って、商品を手に取って買うまでがコミュニケーションとして一番重要な接点だと思うからです。

写真で文字が読みづらいとか、色が全然違うとか、世界観がずれてしまうと全てが台無しになってしまうので、印刷の立ち会いなど細かいところまで丁寧にやってコンビニエンスウェアの世界観を大切にしています。

――メインビジュアルの制作にあたり、意識したことは何ですか?

ビジュアルに関しては初回から一貫していて、普通はモデルがやらないような満面の笑顔を引き出し、ポジティブなビジュアルに見えるようにディレクションしています。シリアスに格好つけるよりは、素直な内面が見えるようなことを目指しました。過去のビジュアルでは、実際の親子や兄弟、おばあちゃんとお孫さんだったり、いとこ同士だったり、リアルな関係性を持った人たちでビジュアルを構成して、より自然な笑顔を引き出せるようにしました。

パッケージデザインについて

――パッケージには日本語と英語が併記されていますが、そこにもこだわりが?

東京をはじめ、日本にはあらゆる国の人が訪れているので、誰もが間違えずに商品を扱うことができることが一番大切だと考えました。ファミマの店舗にも、年齢や国籍を問わず様々な従業員の方がいらっしゃいます。そこで日英併記だったり色や中身などを間違えないように透明パッケージを使用しています。24時間営業しているコンビニはいろんな人が訪れるので、商品が汚れた時のバックアップなどリスクが高く、商品の中身がむき出しになって陳列してあるということは想像がつかなかったんです。

普通はあまり目立たせないようにする商品スペックや品質表示、サイズをデザインの一部として表に大きくレイアウトすることで、より情報がわかりやすく、徹底的にシンプルなデザインに落とし込み、分かりやすさだけでなく、同時に新しさも感じられる「ちょうどいい見たことなさ」を意識しています。

あと、日本のお土産になるといいなとも思いました。カタカナが大きく書いてあるパッケージで、ファミマのシグネチャーカラーの商品もあって、高品質なものであれば海外の方にすごく喜ばれるのではないかと見越してデザインしました。コンビニエンスウェアという商品は日本らしくもあり、海外の人にもぜひ使って欲しいという想いもあります。

Photographer: Takao Nagase (UN)
Retoucher: Akira Takeuchi (UN)

――「サステナビリティへの配慮は標準装備」とあるのも興味深いですね。

バイオマス素材のパッケージにしていて、開封部分には「切らずに開封できます / Easy open」と印刷しています。例えばおむすびのフィルムって、破ったらすぐ捨てるじゃないですか。だけどその無意識に破いて捨てる感じを一旦躊躇させる。これが何かに使えるかもなって思わせることが結構大事な気がしていて。その一瞬に捨てない判断をしてもらうとか、なんか使えそうだからとっておこうって思わせることも一つのサステナビリティなのではないかと。領収書整理に使ったり、文房具や充電ケーブルを持ち運んだり、旅行先で汚れた下着を入れ替えたりとかってことでも使えます。

――様々な人が訪れるコンビニだからこそ、種類やサイズが分かりやすいようにパッケージのヘッダー部分にカラー展開もされてますね。

ラインナップは男女共用のユニセックス(紫)と、レディース(ピンク)、メンズ(水色)があります。最近はこども用の靴下も展開しています。それぞれのカラーを決めるのはすごく難しかったですね。そもそもメンズ、ウィメンズと言ったときに、いまだにある問題だと思うんですけど、まだ女は赤で男は青なの?みたいな感じってあるじゃないですか。なのでそこから少しずらしたんですね。もうちょっと柔らかくて優しい印象にしたかったので。

ユニセックスの色も、緑か紫という選択肢があったのですが、結果的にシンプルに赤と青を混ぜ合わせた紫にするのが良いのではないかということになりました。

――カタカナの大文字がパッケージのアイキャッチのように店頭で目に入ってきますが、フォントはどのように選んだのですか?

和文はタイプバンクフォントのTBゴシック、英文はAkzidenz Groteskを使っています。TBゴシックはAkzidenz Groteskと相性がいいんですよね。ヒラギノだったり、游ゴシックだと細かいトメハネのところに、ちょっとしたディテールがついていて少し気になってしまって。でもTBゴシックに関しては、それが一切ないんですよ。全てがきれいに収まっていて、懐も広すぎず、ディテールのあしらいもサンセリフに近いので。そのバランス感も含めて、きちんと伸びやかに終わっていくTBゴシックの方が美しくて、とても相性がいいなと思ったからです。

Photographer : Makoto Takeuchi
Retoucher : Naomi Sakurai, Hideaki Nemoto

――それ以外に意識したことはありますか?

日英併記のバランスとサイズ感ですね。商品名やサイズなど一番伝えなければいけない情報は大きく分かりやすく、素材やカラーなど商品に興味がある人が見る情報は中サイズ、取り扱い注意など、商品の都合上表記しなければいけないものは小さく。それぞれの情報の役割が違うと思うので、文字サイズと行間のバランスを意識しました。あとすごく地味な部分ですが、半角スペースは全部50%程度で設計されていて、長いスペックなどを読みやすいようなバランスで組んでいます。

――パッケージデザインはリリース当時からあまり変わっていないように見えますが、その理由とは?

例えば同じシャケのおむすびでも、新発売っていうコミュニケーションがされていたり。それってパッケージが変わったよってこと。店頭で目新しく見えるように工夫しているんです。でもコンビニエンスウェアに関しては、細かいブラッシュアップは常にしているんですが、基本的にパッケージを変えていません。というのも、一番の変化は中身の商品が新しくなることだと思っているからです。

――商品の刷新という点では、これまでコラボレーション商品を展開していますよね。

様々な商品を扱うコンビニという場所なので、例えばコカ・コーラ社とコラボしたり、Netflixと「Stranger Things」のコラボ商品を出していたりしています。 あとは広島カープとの地域限定販売商品を出してみたり、「REYN SPOONER(レインスプーナー)」とのコラボで商品を作ったりもしました。去年はFUJI ROCK FESTIVAL ’23」のオフィシャルサポーターとなったことがきっかけで、コラボレーション商品の発売や、フジロックのスタッフTシャツのデザイン、実際の会場でのブース出店もさせて頂きました。社内コラボとしては去年のファミチキの20億食突破記念で、パッケージをそのままオマージュしたソックスを出しましたね。

Photographer: Takao Nagase (UN)
Retoucher: Akira Takeuchi (UN)
Photographer: Takao Nagase (UN)
Retoucher: Akira Takeuchi (UN)
Photographer: Yutaro Tagawa(CEKAI)
Photographer: Yutaro Tagawa(CEKAI)
Photographer: Yutaro Tagawa(CEKAI)
Photographer: Takao Nagase (UN)
Retoucher: Akira Takeuchi (UN)
>QUOTATION FASHION ISSUE vol.39

QUOTATION FASHION ISSUE vol.39

The Review:
SS 2024 WOMENS / MENS
PARIS MILAN LONDON NY TOKYO
COLLECTION

無垢な想像力が空洞化寸前の
消費型コレクションサーキットを扶く

The interview
観たい、訊きたい、知りたい
現代のミステリオーソたち

Gianluca Cantaro
PROTOTYPES
Ludovic de Saint Sernin

CTR IMG