FEATURE|DIALOGUE02 Shinpei Yamagishi × Yoohei Kawakami

FEATURE|山岸慎平(BED J.W. FORD)×川上洋平([Alexandros])創作の微細な本質を語り合う|後篇

ステージで自身を解放する川上と、自然体で日常を丁寧に過ごそうとする山岸。対談中、言葉は交わしつつも、並走するかのようにゆっくりと静かな時間を過ごす二人。しかし、お互いの創作の質感やニュアンスに触れると徐々に温まってくる。時間と空間、日常と非日常、現実と空想、秩序と混沌、共鳴と孤独、作為と自然、必然と偶然。それは創作に向き合う彼らだからこそ、感じ取ることができる波長なのかもしれない。対談の後半に差し掛かると、自らの本質を交し合うようになる。

色気とそれに触れる他者の存在

――共通のニュアンスとして語られるのは色気だと思うが、それについてはどのように考えているか?

川上洋平(以下、川上): 意識したことがないかもしれません。自然体です。

山岸慎平(以下、山岸): 確かに意識した瞬間にそれは色気ではなくなるからね。

川上: 色気ってもっと自然なニュアンスだと思っています。男臭いのも色気だし、品があることも色気。僕らがいる創造の世界は、そういう人が多いと思います。だから、音楽を作ることができるのだろうし、洋服を作ることができる。色気を自分なりに消化する方法(創作)と場所(ライブやランウェイショー)がある。

山岸: すごく共感できる。ニュアンスを纏う中で、色気は独特なムードだと思う。僕は服を作るときに自然な雰囲気を必要としています。例えばそれをカッティングとかディテールに意識的に取り入れるのではなく、コレクション全体で醸し出すムードでしかない。洋服は人の見栄えを良くするツールであるのと同時にコミュニケーションツール。人々の手段を作っているという意識が大切だと思いますし、そうでありたい。

――自らの創作に対する他者の受け入れ方については?

川上: 受け取ってくれる人たちが自由に解釈して欲しいと思っています。僕自身もライブでアレンジしちゃうし。作っている最中は徹底的に作り込むし、この作品は自分だけのものだと思うこともある。ただ、世に出す頃には子供のようで他人のような、「ああ、そんな育ち方したのか」くらいです。

山岸: 「なるほど!」みたいなね。街中で「ベッドフォード」を着ている人を見かけると、その着こなしに新しい可能性のような感覚を抱きます。そして何より、本当に感謝の念しかありません。それによって、次に進むことができるといいますか。

川上をロックスターと称する山岸の真意は?

――先ほど話があったように、作り手としての自分と日常の自分について、まったくの同質であることはないと思うが、どのように差別化しているか?

川上: 先ほどステージだとオフ状態といったのですが、解放的であるということが重要だと思っています。こういう取材の時の方が恰好つけている(笑)。ライブでは万全の準備をしているし、MCも特に用意していない。オン・オフが明確にあるミュージシャンもいるけど、そこには演出を加えているはず。僕は日常で自分を演出しているので、そことは違うけれど、差別化というよりもありのままの自分でいる感覚ですかね。

山岸: 洋平君は根っからのロックスターだと思っている要因がそこにあります。そういう人間像ができていること自体が稀で、歌が上手いとか良い曲を作るとか、そういう基準で表現をしていない。僕の場合、日常が創作の下地になっています。今は特別な瞬間を味わえる機会が少ない。それは、経験を重ねたり、楽しい場や触れ合う人にも馴れが生じる。感動的な時間を感動できない危うさに気づいた時に、日々を丁寧に生きているかどうか、に向き合うことになりました。今は絵日記を綴るように洋服を作っています。その日々の絵日記をパリという非日常な場所で昇華する。何気ない日常を特別な日常にすり替える。そういう意味では虚像なのかもしれませんね。でも、この過程こそが僕にとっての実像です。

川上: まさにそう。ミュージシャンを語る上でありがちなのですが、ファーストアルバムがそのミュージシャンのベスト盤だといわれやすい。それはそうで、1〜3枚目くらいのアルバムに自分の創作の軸が最大限表現されているはず。そうなった時に、それまでと同じ世界観を焼き回すのか、作り続けるために新しい境地へ行くのか。人気はなくなるかもしれないけれど、創作を前に押し進める。僕の場合、新しい刺激を探しに行きます。以前は、自分が影響を受けてきた先輩方の新作や自分がキッズだった頃に好きだったミュージシャンの次回作を楽しみにしていたけれど、若い世代のミュージシャンの楽曲も頻繁に聞くようになりました。そうして、制作に入るとどこかで新鮮な音が入っている。それは自分の中で新しい発見でした。自らの蓄積とはカウンターとなる創作に触れる。自分自身が築いてきた形跡を振り払う瞬間というものは作り手誰しもが経験すると思います。

山岸: それもまた美しいよね。それも美学になる。

川上: 苦しいけどね(笑)。

山岸: ファッションの中でも時流はあるけれど、気にしない努力はしている。今の洋平君の喩えが秀逸で。例えば、昔の「アン ドゥムルメステール」を見ているとやっぱり好きだなと思います。自分が憧れを抱くムードを纏う、を体現していたデザイナーの一人です。ただ、それを現代にそのまま落とし込んだとしても、無理が生じることもある。ただ、時流を直に受け取ることには抵抗感がある。そうなった時に、僕は洋服を買うことを怠らないのです。服を作ることも好きだけれど、買うことも同じくらい好き。それは古着、デザイナーズブランド問わず、そうすることで社会と接続している気になれるのです。ただ、買ってもあまり着る機会がない(笑)。買った後に服を眺めてみたり、袖を通してみたり、思いを巡らせることが好き(笑)。

川上: 慎平君らしいね(笑)。

BED j.w. FORD SS2024 Photo: Genki Nishikawa

[Alexandros] But wait. Arena? 2022 supported by Panasonic at Yoyogi National Stadium First Gymnasium Photo: Yuki Kawamoto

言葉と対峙することで、騙りは語りになる

――お互いの表現に付随するのは言葉と自身の距離についてどのように考えているか?

川上: 歌詞を生むことに苦しむことがあります。僕がどちらかというとメロディー先行型のミュージシャンだと思っていますが、これしかないなって思う歌詞は、メロディーを作っているのと同時に生まれています。例えば、「ワタリドリ」という曲があるのですが、あの時もそうでした。仮の歌詞をつけたのではなく、メロディーを作っている時から「ワタリドリ」という言葉があったし、「追いかけて 届くよう」というフレーズがあった。作った瞬間はこれってどうなのかな、と思ったけれど、結局変えることができなかった。実は、言葉の方がメロディーよりも自分自身とリンクしているのかもしれません。詩でも小説でもなく、歌詞なのだから、文法や言い回しは自由で良い。秩序通りに言い表すことができないから音楽を作っているのです。だから今はメロディーが浮かんだ瞬間に歌詞も書き綴っています。

山岸: ここ数年、僕は言葉をセンシティブに考えるようになったかな。主題がバシッと嵌った言葉やフレーズだと良いシーズンになる。何となくだけれど、主題が明確だと自らの心情や主題を明らかにするコレクションノートが充実する。自然と嘘や見栄がなくなる。騙りではなく語りになるというか。

川上: 曲のタイトルか。デビューした頃からアルバムという収束に捉われずに、一曲ずつ向き合ってきた。でも、それは纏まりがないのでは、と懐疑的に思うことも。最近は配信サービスがメーンで、アルバムという括りではなく、トラックヒットが主流となっている。でも僕はアルバムを聴いて育った世代。それもあって、最近は一枚絵のような作品を作りたいなと思っている。タイアップ曲も入っているけれど、そのテーマに寄り過ぎずにアルバムの世界観を作る。音作りとかは楽曲各々で異なるけれど、根底に流れる音色は共鳴していたり。

BED j.w. FORD SS2024 Photo: Genki Nishikawa

[Alexandros] But wait. Arena? 2022 supported by Panasonic at Yoyogi National Stadium First Gymnasium Photo: Yuki Kawamoto

――作り手として孤独な瞬間も多いと思うが、そういう時間とどのように向き合っているか?

川上: 慎平君は一人の時間が長いのでは?

山岸: 一人で突き詰める時間は長いかもしれない。その時間は僕にとって、幸せな時間でもあり、贅沢な時間だなと思います。ただ、その時間に入ると壮絶。朝起きてアイデアが浮かんでくるタイプではない。

川上: 一人になる時間の量はどう?

山岸: それは今までと変わらないかな。でも、時間帯は変わった。夜中に服を作らなくなった。夜に作った服にしたくなくなった。だから朝方に作業することが増えたかもしれない。

川上: 「夜に作った服にしたくない」って面白いね。なんで?

山岸: 夜作る恰好良さや色気が余計に感じてしまうから。もっとナチュラルな状態でいるためかな。たまに他者が作った服を見ていても思うよ。これは夜に作った服かな?とか。時間を感じ取れる服はとても素晴らしい服だと思うけれどね。ただ、今の自分は夜の匂いがする服を欲していない。偶然だけど、6月のパリメンズは発表の時間帯が朝、コレクションタイトルも夢の跡を意味する「last morning」。ここまで繋がるとなかなか面白い。

川上: すごく新鮮で面白い。どうしても制作は夜になってしまう。歌詞なんて朝までやることもあるからある意味で朝だけど(笑)。それが創作そのものに影響することを考えたことがなかったかもしれない。それと同時に、それを聞いて思い出したけれど、最近寝ている時にメロディーを思いつくことが本当に増えた。

山岸: それはすごいね。どういう状態なのかな?

川上: ある種の瞑想状態なのかもしれない。飛び起きてメロディー吹き込む。翌朝起きて、それを聞いてみると、何これ、みたいな(笑)。慎平君はアトリエに入るとスイッチが入る?

山岸: そんなこともないよ。アトリエに入ると確かに作業効率は上がる。でも意外と歩いている時とか何気ない瞬間かな。アトリエから家まで歩いて帰っているけれど、少し気になったアイデアがあって、家に着いたら軽くデッサンして、明日これをもっと広げてみようと思いながら寝る。

川上: 0から1になる瞬間ってそういう時が多いよね。僕も移動中とか。アイデアを広げるのは早いけれど、最初の瞬間はいつ訪れるかわからない。孤独は、一人の時間を過ごしているという自覚があるけれど、実は無自覚な一人の時間が多いのかもしれないね。

山岸: そうだね。

――今後のビジョンについては?

川上: 流れがあると思っているので、目標を暗示しつつ、その瞬間を楽しんでいます。こういう曲を作ってやろうという肩に力が入った状態ではなく自然体。慎平君に対してですか?そうだな…。このまま突っ走って欲しいです。彼自身もブランドも洋服も本当に恰好好い。印象的だったのが、ご飯食べにいった時にパッと見るとイケてる若い兄ちゃんという普通な一面もありつつ、実は本質を理解していて、自分自身とも向き合っている。同世代の作り手はあまり多くないので、年齢は少し下ですが、同世代として一緒に歩んでいきたいですね。

山岸: 嬉しいな…。今もらった言葉通り、僕らはビジョンに向かって走るだけ。ブランドとしても個人としても明確なそれがある。こうなりたい、ああなりたい、と一生涯いっている欲深い人間であり続けたいです。言葉通り死ぬまで。そしてそれが「ベッドフォード」なら、と思われるように直向きにやっていきます。洋平君は、友人として話していて楽しいのはもちろんなのですが、思うことがあって。僕の生活の思いも寄らない瞬間に洋平君の声や姿が現れる。当たり前だけど、当たり前ではない。それに対して謙虚で寛容な彼の姿勢は見習うばかりです。人としての強さを感じます。普段のまま変わらない強さや姿勢。

川上: ライブと違って普段は演出しているからね(笑)。

>QUOTATION FASHION ISSUE vol.39

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