FEATURE|デザイナー・広岡 毅が踏み出す新境地とは

アナログからデジタル、そしてアパレルに至るまで幅広い分野で活躍するデザイナー・広岡 毅の活動は、新境地へと広がっている。今年5月には、西武池袋本店にある「Art Capsule+」にて、AIを駆使して創造した架空の存在「ゴーレム」の世界観を表現した展示会「東京ゴーレム」を開催。独自の感性が込められた作品を発表した。
今回は、デザインに通じる様々なプロダクトに囲まれた広岡の事務所にて、これまでの活動やAIについての想いを聞いた。

デザイナーとして

――デザイナーになったきっかけは何ですか?

僕は高校卒業して大学に行かなかったんですが、高校時代はたくさんバイトしてお金が溜まっていたんです。それであちこち旅行したりしていて。でも1年くらい経つ頃には貯金も尽きてきて、さすがにこのままじゃまずいなと(笑)。その時まで、デザイナーになるなんて全く考えていなかったんです。そんな時、幼馴染に「お前はデザインに向いてる」って言われて。その子がデザインの専門学校に通っていたので「うち来たらいいじゃん」と。単純なので、自分はデザインに向いてるんだなと思って、よく分からないまま入学しました。それでグラフィックデザインを勉強してみると、これは面白いなと。卒業後は就職活動もしないで半年くらいだらだらしていたのですが、今度は別の友達がデザイン事務所のアシスタント募集の話を持ってきてくれて。そこで雇ってもらったという流れです。

――これまでのお仕事について教えてください。

ロゴ、エディトリアル、CDのジャケット、あとはTシャツの制作などに携わったり、当時ちょうどMacで編集ができるようになってきた頃だったので、映像制作なども手がけたりしました。ここ5、6年はゲーム関連の制作にも関わらせて頂いています。最近は、音やBGMがプレイによってどんどん変化していって、その音を視覚化するように色や動きが変化していく「TETRIS EFFECT」というゲームのエフェクトデザインをしたり、「ノーモア★ヒーローズ」というアクションゲームのUIや2Dグラフィックのデザインも手がけたりしています。

――特に印象に残っているお仕事はありますか?

「MTV VIDEO MUSIC AWARDS」のアートディレクションや、「BEAMS x EVANGELION」のデザインなどが反響としては大きかったです。が、僕は子供の頃から本当にゲームが好きで、『ファミ通』というゲーム雑誌が特にお気に入りだったんです。デザインの仕事を始めてから、いつかその誌面デザインをやりたいと思っていて。エディトリアルの会社に勤めて、一通りの作業ができるようになってきた頃、友達の縁で『ファミ通』の関係者を紹介して頂いて誌面を手がけることができたんです。その時は、本当に夢が叶ったなと思いました。

――色々なお仕事をする中で、どのようなことを大切にしていますか?

僕はアーティストではなくデザイナーなので、どの仕事でもクライアントさんとのコミュニケーションを大切にしています。クライアントさんに「こんな雰囲気にしたい」と言われた時に、その雰囲気になるとどんな“気持ちよさ”があるのかを、自分なりに考えて、抽象化して自分の中に落とし込むんです。この抽象化された“気持ちよさ”をまず定義することが重要だと考えています。そこをつかめれば、あとはそこに至る方法や手段を考えていくのですが、その際には意識してできるだけまっさらの状態から考えるようにしています。

AIとの共作、「ゴーレム」の誕生

――なぜAIを使ってみようと思ったのですか?

息子がAI面白いよって言うので触ってみたら楽しくて、何か作ってみようと思ったのがきっかけです。僕は古い雑誌に載っている挿絵とか、略画辞典に載っているような作者不明の絵がすごく好きなんですが、そういった本はなかなか手に入らないんです。それで試しに画像生成AIで出力できないか試してみました。そしたら思い描いていたタッチにかなり近いビジュアルが出来てきて。しかもそれが結構良くて。

――その延長線上に「ゴーレム」が誕生するのですね。そもそも「ゴーレム」とはどのような存在なのでしょうか?

「ゴーレム」は日本の伝承に出てくるような妖怪に近い存在です。ただ、その出現条件は思いっきりゆるくて、人がいるような場所には比較的簡単に出現します。その場に漂う雰囲気を視覚化したような存在です。例えばビル街のように大きな建物がたくさんある場所では、人々は巨大な構造物の雰囲気を感じ取っています。するとそれが蓄積されて固まって大きな「ゴーレム」になる。人形がいっぱいいる部屋だったら、並んでいる人形と人形の間にちょこんと人形のような「ゴーレム」が生まれているかもしれない。人々が感じている雰囲気がその場に蓄積されて、あるタイミングで「ゴーレム」になる。人々が離れていき雰囲気が薄まるといつの間にか消えてしまう。要は「雰囲気の残像」みたいなイメージです。

――「東京ゴーレム」は昭和30年代から70年代がモデルとなっていましたが、昭和にはどんな想いがあるのですか?

昭和に限定しているという訳ではなく、子供の頃のおぼろげな記憶のような、はっきりしていない部分を想像力で埋められるくらいのものが好きなんです。自分が幼い頃のことはもう雰囲気でしか覚えていないので、勝手にその記憶をうまく変換して自分の中にすごくいい形で補完できてしまう。それがちょうど昭和のあたりだったんです。

――「想像すること」で自分の中に残るものがあるんですね。

自分の子供に関しても、動画はあまり撮りたくなかったんです。動画って、動きとか声とか、喋り方が全部記録されますよね。それだけ十分な情報が入ってきてしまうと、それはもう、それでしかないので。でも写真だとその時の喋り方とか、日差しの入り方が自分で想像できるじゃないですか。そっちの方が僕は見ていて楽しいですね。情報量が多くない方が、想像できる余地があるので。

「ゴーレム」に関しても、見る人がちょっとでもその世界を想像して楽しめるような余地のある形にしたいなと思いました。ただ、バックストーリーがきちんとあるような作家さんの作品と違って、AIで制作しているものは単体だとかなり背景が薄く感じてしまう。余地が欲しいといったものの、観る人の想像力を掻き立てるような最低限の骨組みは欲しい。なので「東京ゴーレム」では数をたくさん用意して、その世界観を想像してもらえるようにしました。

自身にとってのAIとは

――クリエイティブの観点からAIに対する様々な意見がありますが、ご自身ではどのようにお考えですか?

なかなか難しいですよね。やっぱりイラストレーターやアーティストと同じ軸で考えてしまうのは問題があると思います。僕、実はデザイナーって言っておきながら絵が苦手なんですが、周りには絵が上手な人たちたくさんがいて、普段その人たちがどれくらい努力して描いているか見てきました。なのでAIに対して反発が出てくるのは当然だと思います。ただ、人がちゃんと描いてるものと、AIで作ったものって、やっぱり同じではないんですよね。もしかしたら、その単体だけ見た時に区別できない部分があるかもしれないですが、例えばファインアートの作家さんが作るものには、その作家さんの哲学が入っていたりするので、AIでは到底真似できないと思うんですよ。しっかり作品の世界観を作れる人や、独特の視点を持ってる人であれば関係ないところではあって、AIが全部を奪ってしまうのかと言うと、全然そんなことないと僕は思っています。

それでも、ある一定の淘汰は起きてしまうと思います。例えば以前は写植屋さんってたくさんあったんですが、DTPが出てきたらほとんど必要なくなってしまいました。当時は文字詰めがすごく上手かったり、技術のある職人さんがたくさんいたんですが、最終的にはかなり減ってしまったんですよね。そこは残酷ではあるんですが、AIに関してもそういった動きは起こると思います。

――まだまだ未発展な部分が多く不安も残るAIですが、自分が持っているイメージをビジュアル化して、自分以外の人に伝えられるようになった点では画期的ですよね。

そうですね、AIを使うことで広がる可能性があると思っています。例えば、先日行った展示「東京ゴーレム」で「ゴーレム」の世界観を皆さんに共有できたのは、AIがなければ不可能でした。AIは、能力とか技術とか、そういうところからある部分を解放してくれるツールでもあると思うんです。10年前だったら、莫大な予算でもない限りできなかったことですよね。ちょっと話が大袈裟になってしまうかもしれませんが、このまま死ぬまで自分のアイデアを伝えることができないのかなと思っていたところに、AIが出てきたことでビジュアルに落とし込んで伝えられるようになったことはすごく大きいと思います。

例えば音楽でも、昔は音楽を作る楽しさを感じるのに、楽器が弾けるかどうかというハードルがありました。でもDTMで新たな楽曲を制作できるようになったことで、楽器を弾くという方法とは違ったアプローチでもその楽しさを感じられるようになりましたよね。AIもちょっとそれに近いんじゃないのかな。すでに持っている面白いアイデアやイメージを伝えたいけれど、それには能力や技術を身につける必要があります。それを学ぶ時間が取れないような人でも、AIを使うことで何かしらの表現が可能になるかもしれません。

――これから挑戦していきたいことはありますか?

基本的には、今まで通りデザインをしていきたいんですけど、それ以外で最近「ペンプロッター」を使うのが面白くて。ペンプロッターは、手で描くのはなかなか厳しいようなものでも、データを作ってペンと紙をセットすると、機械が正確に描いてくれるんです。これで色々作って良いものができたら販売したいなと思って、「autopicthttps://autopict.com/)」というショップサイトを準備しています。それは仕事以外でやっていきたいことですね。

それともう一つ。僕は1970年の大阪万博が好きなんですが、“ニセのエキスポ”を作ってみたいんです。大阪万博が開催された時に自分は生まれていなかったんですが、その写真とか資料を見て、追体験で好きになったんです。それで今度、実際には開催されていないエキスポの資料を自分で作りたくて。大阪万博も“ニセのエキスポ”も、僕にとっての「体験」としては同じじゃないですか。どちらも行ってないんだし、資料でしか見たことないものなので。

◾️プロフィール
広岡 毅(ひろおか つよし) 
1997年からフリーデザイナーとして活動。2000年5月からLEVEL1として活動開始。2007年株式会社広岡毅デザイン事務所設立。2Dグラフィックデザインを中心に、ロゴマークデザイン・Tシャツデザイン・エディトリアルデザイン・ゲームの演出やVFXデザインなどを手掛ける。

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