FEATURE|コピーライター 国井美果

FEATURE|国井美果がこれまで歩んできたコピーライターとしての道、仕事への向き合い方を聞く

コピーライターへの道程

コピーライターを目指した経緯

姉が出版社に勤めていたので、学生時代には時々手伝いに行っていたんです。編集の現場が楽しくて言葉に関わる仕事に魅力を感じ、就職活動では出版業界を目指したのですが氷河期世代だったからか、全く採用されなくて。

そんな折、本屋でアートディレクター大貫卓也さんの本が平積みになっていたのをを不意に手に取りました。としまえん、ラフォーレ、資生堂「TSUBAKI」、ペプシ、SoftBankなど名作広告を数多く手掛けられている方ですが、その表現の完成度の高さに衝撃を受けてしまって。こんなに面白く質の高いものをとどけられる仕事が世の中にはあるんだ、と。私はアートディレクターにはなれないけれど、広告でも言葉に関わる仕事ができるじゃないかと思い急遽、志望先を広告業界に切り替えて慌てて数社受けました。が、あっさり撃沈しまして。

それでも残りの大学生活の傍ら、広告の講座をいくつか受けたりもして学べば学ぶほど思いが募るようになりました。唯一アパレル関係の会社で内定をもらっていたのでそこに就職する予定でしたが、広告業界にこんなにも未練のある状態だったことと、入社式直前の研修で周りの方の熱意を感じ、自分はそこでは務まらないと思い辞退させてもらいました。

4月になって友人たちは新生活が始まる一方、私には何もない状態。そんな時に銀座の広告制作会社のライトパブリシティがコピーライターを募集していて、3年以上の実務経験が条件なのに未経験でありながら図々しく応募しまして。試験と面接を経てなぜか拾っていただけて、無事にスタートラインに立てました。この出会いがなかったら今頃どうしていたんだろうかと思います。

―ライトパブリシティでの日々

新人なのに経験者枠で入ってしまったので、すぐ現場に放り込まれて悪戦苦闘していました。最初はピアノのカタログのコピーや、ゲームの雑誌広告などを書かせてもらっていました。が、分かっていないこと甚だしすぎましたね。何かコピーっぽいものを書けばいいんだろうという気持ちでしたから、表層的だし、いくら書いてもうまくいくわけない。コミュニケーションって、伝わるって何なのかを理解しきれないまま3年くらいウジウジとして過ぎ。そんな日々で、偉大な上司の後ろ姿を見ながら仕事への姿勢や物事の考え方などを徐々に学んでいきました。手書きのコピーをタイピングさせてもらったり、世間話のような会話の端々にもこの職業に必要な心構えが散りばめられていて。今思うのは、誰の背中を見て成長するかは、大事だなということ。そういう環境にいられたことに感謝しかありません。

広告の仕事はプロデューサー、クリエイティブディレクター、アートディレクター、デザイナー、コピーライター、プランナー、カメラマンなど、チームで仕事を進めていきますが、コピーライターの先輩からはもちろんのこと、どの職種の方からも学ぶことがあって。プロフェッショナルが集まって各々が最高の仕事をするぞ、という広告の仕事ってカッコいいなと感じました。特にアートディレクターの先輩で、デザインがすごいだけではなくコピーも書ける人がいて。先にうまいコピーを書かれてしまうので、本当に悔しかったです(笑)。そうして少しずつ大きな仕事にも参加させてもらうようになりました。

コピーライターの在り方

―コピーライターという仕事への理解

私たちは企業と生活者の間に立って、企業が世の中に伝えたくてたまらない情報や思いのたけを代わりに伝える、いわば告白の代行のようなことをします。メッセージを受け取った人が、それを知りたかったんだ、やってみよう、と思える新たな価値に変換していくわけです。

オリエンテーションの時には、クライアントが世の中に伝えたいと思っている要望をたくさん受け取るんですが、それをそのまま生活者に伝えても相手によってはノイズになってしまうし、このご時世の溢れている情報に紛れてしまう。

なので、人の潜在意識の中に埋もれている「本当は欲していたけれど、声にならなかった思い」、インサイトとも言われますが、それをすくいとり、企業の届けたかったことと結びつくと新しい気づきに変わる。そうしてその人にとってより良い行動へのスイッチが入っていく……と、だんだん自分なりに理解していって。うまくいくとすごく気持ちよいのですが、当然ながら簡単ではありません。

―目指すべきコピーライティングのカタチ

広告コミュニケーションは前提として、見たくて見る人はほぼいないし興味も持たれていない。その状況で伝わるにはどうしたらいいのかなと考えます。

最近いいなと思うのは、メッセージを受け取った人の内面に、心地のいい波紋が起きるイメージです。小石をポンと投げて、その波紋がどれだけ気持ち良く長続きするか。勢いよく石を投げ入れて派手な水しぶきが上がるのも醍醐味なのですが、その場限りのものではなく、ずっと続いていくものを。さらには波紋が外側にも広がっていくようなものをつくりたいなと思っています。

―制作の裏側

言葉って降りてくるんですか?ってよく聞かれますが、そんな経験は1度もなくて。みっともないほどにウジウジと向き合ってます。PCに向かって没頭して、しばらくしたらお皿を洗ったり、散歩に出たり、まったく違うことをしてリフレッシュします。そうすると頭の中が整理されてくる気がします。そんな時間すらない時は、もうずっとウジウジやってます、最後の最後まで。生みの苦しみがないことはないですね。苦しがりたい、M体質なんでしょうね(笑)。

オリエンテーションを聞いたら、なるべく寝かせずスタートダッシュは早くすることを心がけています。インプットで感じたちょっとしたことが最後までキーポイントになることもあるので、その鮮度を大事にしたいなと思っています。

ものごとを難しそうに言うことって簡単です。でも私たちの仕事は、どれだけ平たく、かつ独創的に伝えるかということ。誰にでも分かるように伝えるのはすごく大変です、でもその大変さが好きなんですよね。万人が分かるのに、誰も思いつかなかったっていうところを突くのが理想です。コピーライティングは自己表現ではなく、目的に対して必死に向き合っているとやがてその書き手ならではのゴールが見えてきます。

2005年に発表した資生堂のコーポレートメッセージ「一瞬も 一生も 美しく」というコピーは、はじめ別のコピーが候補になっていました。資生堂にとって「美」は大切な概念ではあるけれど、それを超越してこれからの化粧品会社のイメージをつくっていくのはどうだろうと、敢えて「美しい」という言葉を入れていなかったんです。でも役員会で「資生堂は美しい生活文化の創造を続けてきたので、美は入れたい」というご意見をいただいて。美から逃げない、という会社としての方向がそこで定まりました。

こちらが提案した言葉が起点になって、先方が考えたり、意思を確認するきっかけになることは面白いし、コピーライターの大事な役割だなと感じています。

―デジタル・AI時代に思うこと

SNS的な視点でいうと、短めでストレスにならない言葉が求められているとは思います。どんな言葉をきっかけに興味をもって情報を取りにきてくれるのか、ということもよく考えています。

先日、新聞広告に載せた言葉がたまたま、一瞬トレンド入りしたんです。新聞からSNSに拡散されて。見た人が自発的に広めてくれるといいなと思ってはいたので良かったのですが、意図したことではなくまったく偶発的なことでしたね。

最近はAIの進化が取り沙汰されています。実際に使ってみると瞬時にたくさんの答えを出してくれるけれど、面白いって思えるものにはまだそう出会えてはいない気もします。自分の気持ちが揺れたり、不意を突かれたり、みたいなものは出てこない。そういうニュアンスを生み出すのは、実直すぎるAIには難しいのか、こちらの指示の出し方が甘いのか。良い意味での裏切りは苦手なのでしょうか、いや、すぐ追い付かれるのでしょうか。この仕事は今のところまだ人間に分があると信じたいのですが。

―コピーライティングとは

「伝えたい、とどけたい」という企業の思いをカタチにして、世に放つこと。

それを受け取った人が「あなたが存在してくれて良かった」と思うこと。

国井美果 プロフィール:
コピーライター、クリエイティブディレクター。
コーポレートメッセージや企業広告、ブランドをつくる・磨くなど、
社内外をつなぐさまざまな言葉やアイデアで企業や社会の活動に関わっている。
株式会社ライトパブリシティを経て、現在は個人事務所。
http://kuniimika.com/

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